増え続ける[ヨコ文字ビジネス用語]がもたらす現場の当惑と混乱

難読ヨコ文字<上級>

ウェルビーイング 個人またはグループが身体的、精神的、社会的に良好な状態であることを意味する概念。働き方改革によって、職場環境や働き方を見直す一つの指標となった。 プロダクトドリブン 「顧客主義」のこと。利用者の意見やニーズを中心にマーケティングなどを行う考え方。「ドリブン」とは「駆動する」「操縦する」あるいは「原動力となる」の意味。 AIDMA 「Attention(注目をひく)」、「Interest(興味をそそる)」、「Desire(欲望を起こさせる)」、「Memory(記憶させる)」、「Action(行動を起こさせる)」の頭文字を取った消費者心理のこと。 パーパス 企業や組織、個人が社会において「何のために存在するのか」という確固たる存在意義を指す。近年、経営戦略やブランディングのキーワードとして用いられることが多い。 グロースハック ユーザーのニーズを分析し、検証と改善を繰り返しながら製品やサービスを成長させていくマーケティング手法。近年では「グロースハッカー」という職種も浸透してきている。

ヨコ文字を多用する日本人。外国人からはどう見られている?

アン・クレシーニ氏

アン・クレシーニ氏

 ヨコ文字用語を多用する日本人を、外国人はどんな目で見ているのか。和製英語を研究する北九州市立大学准教授のアン・クレシーニ氏に話を聞いた。 「日本語の語彙の約10%は外来語と言われています。今、使われているヨコ文字ビジネス用語は、今まで日本にはなかったテクノロジー用語なので、外国人の私から見ても違和感はありません。英語圏に憧れがある日本人は、会話にヨコ文字用語を入れることで“かっこいい”と思われたいのでしょう」  クレシーニ氏が疑問視するのは、「外来語の役割とは何か?」を理解した上で使っているのかということだ。 「今回のコロナで『パンデミック(世界大流行)』という言葉が出てきましたが、ニュースをあまり見ていない人にはなじみがなく、『意味がわからない』という声が聞こえてきます。私が教えている大学でも知らない学生がいました。ヨコ文字ビジネス用語もこれと同様で、業界内では通じていても、一歩踏み出すと一般の人には理解できない。日本人同士でコミュニケーションが崩れてしまうのは問題です。」  九州在住で普段方言を話すというクレシーニ氏は、他県では通じない言葉があることを実感しているという。 「たとえば『ハンドルキーパー』はお酒を飲む場で帰りの車を運転する人のこと。車で居酒屋に行く文化がない東京では通じないでしょう。和製英語も同じことが言えます。いま日本人が使っている『ランニングマシン』『ビジネスホテル』『コストダウン』などの多くは簡単な英語を合体させた和製英語。英語圏では通じません。ホテルの朝食の『モーニングサービス』は、英語では『教会の朝の礼拝』のことだし、『リスケ』なんかは『いやらしい、いかがわしい』という意味。初めて聞いた時は驚きました」  クレシーニ氏はヨコ文字用語を使う際の注意点を次のように指摘した。 「英語圏で通じる言葉か日本でしか通じない言葉かの見きわめが大切。コミュニケーションのゴールは、自分の言いたいことを正しく相手に伝えられるかということ」  円滑な人間関係を保つには、ヨコ文字用語の前に、相手が置かれた状況に合わせることが必要なのだろう。
寺本衛氏

寺本 衛氏

【寺本 衛氏】 三省堂出版局次長。外国語辞書の編集を約30年続ける。主な担当辞書に『グランドセンチュリー英和辞典』『エースクラウン英和辞典』ほか。
井上逸兵氏

井上逸兵氏

【井上逸兵氏】 慶応義塾大学文学部教授。慶應義塾中等部長。文学博士。専門は社会言語学、英語学。著書に『バカに見えるビジネス語』など。 【アン・クレシーニ氏】 北九州市立大学准教授。言語学者。作家、コラムニストなど多彩な顔を持つ。著書に『「カタカナ」英語を「通じる」英語へ』(アルク)など。 <取材・文・撮影/櫻井れき>
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