増え続ける[ヨコ文字ビジネス用語]がもたらす現場の当惑と混乱

 近年の外資・ITベンチャー系企業の急成長により目にする機会が増えたヨコ文字ビジネス用語。今年は新たに「ソーシャルディスタンス」「テレワーク」「エッセンシャルワーカー」といった新型コロナ関連の用語が流行語大賞にノミネートされるなど、ヨコ文字文化は時代とともに進化し続けている。しかし、時にそれは“難読用語”としてビジネスの現状に混乱を招いているようだ。 ヨコ文字ビジネス用語

進化し続けるヨコ文字文化

「のちほどアサインするのでリバイスお願いします」  上司からの社内メールに戸惑いを見せるのは、IT系企業に勤める派遣社員の秋山康人さん(仮名・男性・31歳)。 「担当を割り振って資料の訂正を指示するだけなのに。“意識高い系”のメールはいちいち検索して意味を確かめてから返信するのでうっとうしいです」  秋山さんの上司は会議でもやたらとヨコ文字ビジネス用語を乱発し、部下を困惑させているようだ。 「何かにつけて『それ、エビデンスとれてるの?』と。根拠と言えばいいのに。エビデンス言いたいだけっしょ!」  また、転職活動中の森淳生さん(仮名・男性・34歳)は、求人サイトに蔓延するヨコ文字ビジネス用語に混乱しているという。 「募集広告の業務内容が『グループアセット』『シナジー』『ピープル・デベロップメント』など、カタカナばかりで。自分が本当にやりたい仕事を見つけようと転職活動を始めたのに、やりたいことが何なのか、さらにわからなくなった」  このように難読ヨコ文字用語が次々とビジネスシーンに浸透し、多用されている理由は何なのか。慶應義塾大学教授の井上逸兵氏は次のように分析する。 「明治時代より、戦後まもなく、先の東京オリンピック、バブル期と、ヨコ文字用語はいずれも海外の文化が一気に日本に広がった時代に流行しています。ただし、明治時代は訳語を作っていました。現在のように難読用語が増えたのは、今までの日本人の概念になく、ふさわしい訳がつけられない言葉がどんどん入ってきているからなのでは。たとえば『ソリューションパートナー』は『一緒に問題解決をしていく仲間』という意味ですが、日本では使われていなかった用語。この場合、ひとことで言い表すにはヨコ文字用語のほうが端的でキャッチーに表現できるのでしょう」

日本人は外国語を受け入れるのが得意

 また、日本語は外国語を取り入れて定着させるのに向いた言語であるとも。 「日本語は名詞に『する』をつければ動詞になる。たとえば『ペンディング(保留)』に『する』をつけるだけで言葉として成り立ちます。また、『タイトな』のように『○○な』をつければ形容詞に。日本人は新しいものを作り出す能力は欧米に負けるかもしれないが、うまく咀嚼して応用する能力は世界でトップレベル。ただ近年は、ヨコ文字にしなくても良い用語も増えている傾向はありますね」(井上氏)  確かに、「アジェンダ(行動計画)」「ローンチ(立ち上げ)」「オポチュニティ(機会)」など、日本語で表すほうが理解しやすい言葉を乱発するビジネスマンは多いようだ。なかにはこんな声も聞こえた。「“デキる”と思われたくて『フィードバックするからもう少しブラッシュアップして』と指示したら『ルー大柴みたい』と言われた」「『ASAP』『Win−Win』を乱発している上司。みんな陰口を言ってます」  また、現在放送中のテレビCM「ほけんの窓口~今さら聞けない篇」では、会議中に出てくる「コア・コンピタンス」という言葉をスマホで検索するという、現状を揶揄した様子が描かれており話題となった。  こうした現象について、外国語辞書の編集を約30年続ける三省堂辞書出版部の寺本衛氏は次のように話す。 「外国語を効果的に使うことで、『ビジネスの最先端にいる』と思われたい自己顕示欲の表れでしょう。日本人は“4拍子”の民族なんです。古くはスパコン、シスアド、そして現在のコンプラ、プレゼンなど。ヨコ文字用語はリズム的に日本人に親和性があるのでは」  次に難読ヨコ文字の一覧を掲載したが、いくつの用語が理解できるだろうか。社会生活においてオーソライズを得るには、ジャストアイデアではなく、アジャイルでフレキシブルなコミュニケーション能力がベストプラクティスなのかもしれない。
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