日本に到来した新型コロナ「第3波」。無責任な政府対応とピンボケ報道が招くシナリオ

「謎々効果」がない欧米は桁違いだが……

 欧州、北米では、我々が享受している謎々効果が無い為に、ケタ違いに強烈なエピデミック(地域全体ではパンデミック)が生じています。  本邦と同じくパンデミック対策に失敗した合衆国は、9月下旬から第3波に見舞われていますが、リーダーシップの不在=トランプ大統領の無関心と無為無策によって連邦政府の動きは鈍く、州政府による対策となっています。  医療がパンクしてしまい、医療関係者は、自分自身が感染していても無症状ならば働き続けているノースダコタ州、テキサス州のように医療がパンク寸前の州*、カリフォルニア・オレゴン・ワシントン州三州連合のように医療のパンクを防ごうと連携して機動的な対策を行っている州、これまでの対策の結果としてエピデミックを何とか制御下に抑えているニューヨーク州などの東部諸州など州や地域によって大きく違いがあります。 〈*執筆時点で、テキサス州エル・パソ郡では、遂に重症者の治療放棄がはじまっており、郡病院の建物周囲を遺体安置用の冷凍コンテナが取り囲んでいる〉  共通していえるのは、共和党系の多くの州を除き、各州政府は、本邦と異なりこれまでに整備してきた大規模なPCR検査体制によって現状把握と公衆衛生の維持を行い、マスク着用の奨励と義務化、社会的行動制限の段階的発動を行うことで、市民と社会を守ろうとしていることです。行政が市民に責任を押し付けずに仕事をしており、これがトランプ大統領や日本政府と根本的に異なるところです。  欧州では、夏の第2波は防いだのですが、バカンスを原因としたエピデミックが8月にはじまり、それが秋の波へと連続することで9月には大規模なエピデミックが発生しています。但し英国は、欧州本土に比してバカンスが小規模であったとのことで、遅れて9月に季節性のエピデミックが生じています。  英国政府は、9月から段階的に社会的行動制限を開始しており、イングランドなどでは11月から1ヶ月間のロックダウンを開始しています。ドイツやフランスも11月に入り1ヶ月間のロックダウンに入りました。  春のパンデミックで30〜60日間のロックダウンに苦しんだ欧州各国は、できればロックダウン回避、せめて30日程度にという目的を持って公的介入=社会的行動制限の改良を試みてきています。フランスと英国で顕著ですが、フランスはロックダウン入りから10日程度でエピカーブが下降に転じており、英国は、10月の時点でエピカーブの上昇率を抑えることに成功しています。  ワクチンが無い状況での新型感染症対策は、各国手探りですが、これまでの経験を活かして、年内には目星をつける為の努力がなされています。  これまでトランプ政権の真似をしてか、政府が対策に極めて消極的かつ無関心であった本邦は、アリとキリギリスの寓話におけるキリギリスの悲哀が身にしみることになりそうです。少なくとも現状ではクリスマス中止が避けられそうにありませんが、今から大規模な介入を行えば、お正月は、社会的距離厳守の上で迎えられそうです。  なお本邦は、倍加時間が現状のままで、公的介入が行われないと言う最悪のシナリオでは、12月第1週に100ppm、第2週に200ppm、月末には800ppm(10万人/日)の日毎新規感染者と、フランスの最悪値に達することとなります。もちろん日本人特有の強烈な私的介入=「自粛」によって実際には100〜200ppm(1万〜2万5千人/日)程度で上げ止まる可能性は十分にありますが、その程度であっても備えの貧弱な本邦では、医療は機能を失うこととなります。  現在菅政権は、12月末に総選挙を行う意志を持っているという話がありますが、その場合12月以降、政府がまともに意思決定と行動ができなくなりますので、最悪シナリオをとる可能性があります。いずれにせよ総選挙を10月中に実施しなかった時点で政局沙汰は時期を完全に逸しており、社会のシャットダウンを段階的に行うと言うたいへんに難しい事業を行いながら総選挙を行うことは日本政府には能力不足で不可能です。州政府の自治が強く、緊急対応能力が強力な合衆国の真似を本邦がするなど、おこがましい思い上がりです。  ウィルスには、人間の都合など関係ありません。
仏国、合衆国、英国、独国と東部アジア・大洋州諸国における百万人あたり日毎新規感染者数の推移(線形ppm 7日移動平均)

仏国、合衆国、英国、独国と東部アジア・大洋州諸国における百万人あたり日毎新規感染者数の推移(線形ppm 7日移動平均) 2019/12/31-2020/11/13
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死者はどの程度?

 COVID-19による大規模エピデミックが生じた場合、どの程度のひとが死ぬかは、これまでの経験によってだいたいわかっています。統計において、死者数は、新規感染者数に3週間遅れの遅行指数であり、致命率はCFR(Case Fatality Rate)*として既に統計化しています。 〈*致命率(CFR)は、分子が診断付累計死亡者数で、分母が診断付累計感染者数である〉  本邦の場合、現在約2000人/日程度の新規感染者が発生していますが、3週間後(12月第1週)その2%の40人が毎日死ぬことが予想されます。  指数関数的増加を止めなければならない理由はこれで、倍加時間が7日で継続すると、12月第2週には100人/日程度の死亡数となり、投票日とされる12/27には、医療のパンクによるCFRの増大と合わせて千人程度の人が毎日苦しみながら死んで行くことになります。このような状態で、本邦での選挙が成立するとは、筆者には考えがたいです。
合衆国における日毎死者数と日毎新規感染者数の推移(片対数)

合衆国における日毎死者数と日毎新規感染者数の推移(片対数)
死者数の推移は、新規感染者数の推移に3週間遅行する
各国における致命率(CFR)の推移 各国における致命率(CFR)の推移
かつて5〜20%であったCFRは、現在1〜4%の範囲である。これはウィルスが弱毒性に変異したのではなく、人類が治療法の発達、医療態勢の強化と言う形で変わった為である。但し、医療が圧倒されるとCFRは大きく上昇する。現在本邦のCFRは、2%足らずである
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 ここまで、恐るべき未来を示しましたが、もちろん、公的な介入=社会的行動制限が行われれば、10日から14日程度で効果は現れますし、その効果はばつぐんなものになります。また、様々な介入により倍加時間を長くすることによって時間稼ぎをすることも出来ます。  問題は、本邦の特異現象として、ジャパンオリジナル・国策エセ科学・エセ医療デマゴギーの蔓延により、検査も接触追跡もきわめて低い能力のままであること、トランプ大統領と同じく、政府に対策をする気が無いこと、専門家が平然と嘘をつくことなどがあり、指数関数的増加を見せている季節性エピデミックを効果的に制圧できる可能性が低いことがあります。  最早こればどうしようもないなと言うのが筆者の偽らざる考えです。
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