菅政権下の日本を暗示する、官邸前の光景。ハンスト25日間で気づいたこと

首相官邸

TK_Garnett / PIXTA(ピクスタ)

ハンストの最中、頭に浮かんでいたこと

 尾籠ろうな話かつ男性諸氏にしかわからぬ話で恐縮ながら、街には「立ち小便ができる街」と「立ち小便が出来ぬ街」がある。  この差は人通りの多少に関係がない。人目があるから小便をするしないという分別がうまれるわけではなく、人目があろうとする場所ではするし、しない場所ではしない。  また、清潔感の問題でもない。汚く不潔で人通りがなくとも、なぜか立ち小便しにくい場所もあれば、綺麗で華やかで人通りがあるにもかかわらず立ち小便をやらかす不逞の輩が続出する街もある。  行政の行き届きの差や、警察の目が光っているかどうかも関係ない。交番の裏で立ち小便に及ぶ連中もいるではないか。  こう考えると、立ち小便の分別は誠に微妙だ。具体例をあげてみよう。朝の3時である。貴方はしこたま飲んだ。もう、へべれけである。しかも冬の朝方。周囲は寒い。人っ子ひとり歩いていない。その状態で、貴方は、祇園甲部の歌舞練場の脇で立ち小便ができるか?  同じ歌舞練場でも宮川町なら先斗町ならどうだ。では、同じ花街で、神楽坂ならどうだ。ええい。汚い街にいこう。大久保通りを西にくだって、歌舞伎町ならどうだろう。歌舞伎町でも風林会館のあたりと、もっと先のラブホテル街の入り口では違いはないか。山手線に乗って渋谷でおりて宮益坂方面と道玄坂方面で違いはないか。NHKに向かう方面ではどうだ……。  今思うと、25日間にわたる首相官邸前でのハンガーストライキの期間中、私は頭の中のどこかで、ずっとこのことばかりを考えていた。冗談やケレンで言っているのではない。本当に私は、ずっと「立ち小便」のことを考えていた。  日本学術会議への内閣総理大臣による人事介入は、明々白々たる、法律違反である。この法律違反は、凡百の左翼や自称「リベラル」たちがこぞって指摘する「学問の自由に対する侵害」などという美辞麗句ぎみなピントのずれた指摘とは別次元にある、さらにシビアで深刻な問題なのだ。

歴史上稀に見る無法な為政者、菅義偉

 菅総理は総裁選の最中に「公務員が内閣の方針に反対するなら退いてもらう」と言っている。また一方で「我々は選挙で選ばれたのだから、前例踏襲をよしとせず、さまざまな改革に着手する」とも言っている。そして日本学術会議については「会員は公務員である」と言いのけている。この3つを合わせて考えると「日本学術会議を根拠づける日本学術会議法の条文と、同法に基づくこれまでの国会答弁では、内閣総理大臣による人事介入は厳に禁じられるところであるが、我々は選挙で選ばれた以上、法律や前例に囚われることなく、その方針に反対する公務員の首をはねていくわけで、日本学術会議に人事介入するのは、法はどうであれ当然である」と言っているに等しい。  これほど無法な為政者は前代未聞といっていい。あの習近平でさえ、チベットやウイグルや内蒙古を弾圧するのに、前もって法律を用意する。香港の言論人やプロテスターを弾圧する際に、北京政府が「香港国家安全維持法案」なる法律を新たに用意した姿を我々はつい最近目撃したばかりだ。  その権力掌握の過程を後年「Machtergreifung (マハトエアグライフング)」=「権力乗っ取り」と揶揄されることになるナチスによる権力掌握でさえ、当事者であるヒトラーもゲッペルスもその最中には「完全に合法であること」を主張していたし、「あんなものは泥棒である」とこき下ろす後年の史家でさえ「法の欠陥をついてはいるものの、合法といえば合法である」と主張せざるをえない手順を踏んでいる。  しかしながら菅首相は「合法か非合法かは、自分たちが選挙で選ばれた以上、問題ではない」と嘯うそぶいているのだ。習近平やヒトラーよりも醜悪とするほかあるまい。  そう考えた私は、この菅首相による「法の支配の否定」を糾弾するためにも、そして「学問の自由が毀損される」と腕を組んで斜に構えるだけでなにもしない言論人たちに掣肘を加えるためにも、「合法か非合法かなどどうでもいいと嘯く相手に、常の手段で対抗できるわけがあるまい」と、ハンガーストライキを決行するに及んだ。  相手は既存の法を無視すると宣言する輩だ。それは語の全き意味での「暴力」。確かに「ペンは剣より強し」だが、ペンが剣より強いのは、その剣がペンの隣でふるわれている場合に限る。剣がペンそのものを標的にする場合、いかにペンでも剣には勝てない。剣の対象となったペンはその瞬間は黙らざるをえず、ペンの強さの発揮を他者=たとえば海外のジャーナリストや、後世の史家に委ねねばならぬ。今次の菅首相による剣の発動は、学者のみならず目下の日本でペンを握る人全てを対象としている。その末席に連なる自分としては、菅義偉による血祭りにあげられるぐらいならば、暴力は暴力でも「自分に向けた暴力」で、それに対抗するしかあるまいと、考えたのだ。ハンストに突入したのは10月2日の19時。それから25日間、当初の3日間だけはオレンジジュースを飲んだものの、その後は、水と塩と経口補水液とコーヒーだけで過ごし、最後の5日間は完全に水と塩だけを摂取しながら、雨の多い今年の10月の大半を官邸前の路上で費やした。その経過については別稿にゆずるとして、さてこそ、立ち小便の話である。
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官邸前で費やした25日間で痛感したこと
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