写真はイメージ(adobe stock)
ダボダボのスラックスにヨレヨレのワイシャツ。顔色は真っ青で目は半開き。腰を折り曲げながら被告人の男はうなだれていた。ときおり、深いため息をついては大きく肩を落とす。この男、いくらなんでも顔色が悪すぎである。断食に断食を重ね、酒だけを飲み続けたような顔色。体も痩せ細っており、絵に描いたような不健康さだ。
「名前はぁ……〇〇。昭和60年〇月〇日生まれぇ……。北新宿〇丁目ぇ……」
男は大学を卒業後、アルバイトなど職を転々とし、現在は北新宿のアパートで生活保護を受けながら暮らしている。申し訳ないがその話し方からしても、まともに働くことは無理そうである。
問われた罪は「東京都青少年の健全な育成に関する条例違反」「公務執行妨害」「傷害」のトリプルパンチ。裁判傍聴が日課とはいえ、私は法律に関してまだ無知だ。字面的に性犯罪だとはわかるが青少年とある。幼い男の子に手を出してしまったのだろうか。いや、たしか青少年といっても男の子に限った話ではなかったかも。
しかし、性犯罪の裁判というのはいつ見ても人気である。以前、「JR新宿駅構内で後ろから女性に抱きつき『飲みに行こうよ』などと言いながらディープキスをしようとしたものの女性が拒否したために結果的に被害者の唇を舐め回すかたちになった男」の裁判を傍聴したが、その日も傍聴席は満員御礼だった。
今日もほぼ満員。そして性犯罪の傍聴の特徴のひとつは女性の傍聴人が多いことだ。女性のほうが性犯罪の被害に遭う可能性が高いのは自明であるし、やはり気になるところなのだろう。単純に「許せない」という気持ちで傍聴をしているのかもしれない。男性の傍聴人はどこか好奇心が薄く見える顔をしているが、女性の傍聴人はこの不健康男のことを厳しい目で見下している。
以前、大阪市西成区あいりん地区で知り合った前科9犯(覚せい剤7回、傷害2回だった、たしか)のおじさんは刑務所のなかにはヒエラルキーというものがあると私に教えてくれた。そのおじさんによれば、「刑務所のなかでもっともヒエラルキーが低いのは性犯罪者」。殺人犯は英雄というわけではないが、勇気がなくちゃできない犯罪、そんな考え方らしい。
刑務所内で囚人たちがもっとも熱中する遊び、それは「いじめ」だという。なかでも下着泥棒なんかで捕まった日には格好の餌食となる。刑務所内でのあだ名は「おパンツ泥棒」。「やあ、おパンツ泥棒さん」と話しかけられ、遠くからは「おい、おパンツ!」と揶揄される。ロリコン系の性犯罪に関しては刑務所のなかでも人間失格レベルらしい。おパンツいじりなどまだまだ優しいほうで、ロリコンなど誰も相手にしない、存在自体を否定する、そんな待遇が待っているという。
そしてこの不健康男がなにを隠そうロリコンであった。男は相手が18才以下と知りながら、15才の少女と性行為に及んだ。こんな男が一体どこで少女と知り合うのか。それはTwitterだ。Twitterで援助交際を持ちかけ、カカオトークへと移行し、後に二人きりで会うのだという。自由恋愛などではなくもちろん援助交際である。つまりは、少なからず生活保護費の一部が援助交際代に消えていたということだ。もう最悪である。