コスタリカ国内のイエロー・オレンジアラート分布図(政府コロナ特設サイトcovid-19.go.crより)
第一派の到来後、コスタリカはすぐ緊急事態を宣言し、稼ぎ頭である観光業をすっぱり諦めてじっと耐える戦略をとった。失業率は24%に達したが、休失業補償をすぐに制度化した。そこまではよかった。
が、その制度がうまく運用されず、いつまで経っても給付金が振り込まれないケースが多発した。特に観光関連産業従事者のダメージは大きく、筆者の知るところでは、ペンキ塗りやコーヒー農園での作業など、慣れない仕事で日銭を稼ぐ観光ガイドも出てくる始末だ。
政府は現在、全土に警報(アラート)を発しつつ、それを82ある郡単位でイエローとオレンジの2種類に分類している。オレンジに指定された地域はプレートナンバーごとの車の通行規制が強められるなど、厳しめの制限がかけられる。
一方で、経済活動の再開も模索しており、カナダやヨーロッパなど、一部の国からの空路も再開され、
8月13日からは日本からの渡航も一定の条件付きで解除された。商業施設も、制限つきながら再開を認め始めている。
交通制限と経済再開を同時に行なうことになるその策には、不満の声もあがっている。
商業地が集まるエスカス市の市長など自治体首長6名は連名で、公衆衛生上の交通規制をかける政府に対して前代未聞の行政不服訴訟を起こした。商業を再開できても、オレンジゾーンに指定されれば、そこを運転できる車の数は通常の半分から5分の1にまで制限されるからだ。
休失業補償に関しても、不満の声が根強い。第一弾の給付額は1人あたり最大月12万5000コロン(約2万2500円)×最長3か月=最大37万5000コロン(約6万7500円)で、失った収入をカバーできていない人も多い。7月29日には補償第二弾の予算が組まれたが、第一弾で多発した遅配などもどれだけ改善されるか未知数だ。
ウイルスは人を差別しないからこそ、社会のほころびを浮き彫りにする
政府は相変わらず毎日の記者会見を欠かさず、そのほとんどにダニエル・サラス保健相は出席してきた。そのサラス大臣も、父親の感染判明によって9月7日まで自宅隔離となり、遠隔執務を余儀なくされた。残念ながら大臣の父がその後亡くなったのは、冒頭に書いた通りである。
その間、公衆衛生対策も当初と同様、手洗い・消毒、ソーシャル・ディスタンス、ステイ・ホームを一貫して呼びかけ続け、検査体制も病床数もどんどん拡充しつつ、軽症者は自宅隔離、重症者のみ入院という姿勢も一貫している。
一方で、この間政府の人事が変わったり、現アルバラード大統領就任以降目に見えて推し進められてきた交通インフラ整備などへの投資が過大だとする批判があがったりするなど、ほころびも大きくなってきた。
交通インフラ整備は長年課題とされながら放置されてきた問題でもあったので、これを評価する向きもある。ただ、コロナ禍第二波が拡大・長期化の様相を見せる中、政策の優先順位を入れ替えるべきだという議論が増えてきている印象がある。
国の政策を第一波と第二波の時で比べると、規模の違いこそあれ、質的には特筆すべき変化がない。では、どこで差が出たのか。
繰り返すが、ウイルスは人を差別しない。だからこそ、社会のほころびが大きいところでその被害は極大化する。コスタリカの場合、隣国の不安定さと国内の貧困・格差問題を、第二波があらためて浮き彫りにしたというわけだ。
もともと、現アルバラード政権も、その前のソリス政権(どちらも市民行動党)も、格差の縮小を重点公約のひとつに掲げてきた。
世界銀行のジニ係数統計を見ると、もっとも格差が大きかった2000年代より、市民行動党政権が誕生した2010年代の10年の方が平均して数値が低い(つまり格差が小さい)。
ただ、もう少し細かく数字を見てみると、極貧層は減少しているが、貧困層そのものはまだ分厚く、数としては増えていることがわかる。これは、新しく増えた人たち(産まれた子、外国から流入してきた人)の貧困率が、既存の人たちの貧困率より高いということを示す。
OECDに加盟ホヤホヤの「途上先進国」ともいうべきコスタリカの財政では、貧困層の増大を食い止めるのは厳しいことに変わりはない。その中でやりくりを求められていたところにコロナ禍が直撃し、社会の弱いところを突き崩したのだ。