共産党・古谷靖彦市議は、住民投票条例制定の運動が起こってることに触れながら、その所感を林市長に質問した。その質疑は以下の通り。
古谷靖彦市議:「あのー、市長はですね、選挙の際には「カジノ推進だ」と言わずに当選を果たしています。で、当選してから「カジノ推進だ」と市長が進めていることに対して、市民の怒りが出ています。で、大事な市政課題はですね、やはり市民の意見を聞いてやるべきだというのが、住民投票条例制定の運動が起こっています。まず、この運動が起こっていることについての所感を伺います。」
林文子市長:「
あのー、IRに関する直接請求の動向等についてはですね、一つの、あの、市民の皆様のお考え、一つのお考えであるという風に私は受け止めております。(
青信号)
えー、何かこう、何回も申し上げて申し訳ないんですけども、やっぱり議会で、あのー、その、議論をして、ここで議決をする。だから市長が勝手に決めて、何かを動かすということは全くできないですね。どんな政策についても必ず議論をして、えー、ご承認頂いて予算をとって、実際、またそれによって政策が実施されるということを経て、私も11年間の経験をしておりましたので。え、そういう意味では、あのー、何か私が勝手にですね、一人でことを動かしたということも、あの、無いのではないかという風に思います。(
赤信号)
やはり一方ではIRを賛成している方もいらっしゃるし、反対している方もいらっしゃいます。ということだと思います。ですからそういう意味で市長というのはあくまでも、えー、全体をですね、やっぱり意識しながら、あのー、皆さんとご一緒にですね、市政を動かしていくべきだと考えています。(
赤信号)
えー、ということで、あのー、まあ、例えば、えー、市民の意見を聞いてないじゃないかというふうなお話でございますけども、まあ、今回のIRについては、えー、住民投票をしてですね、そのー、えー、決めるということではない。国の方でそういった、えー、あくまでも私は何度も申し上げておりますが、ナショナルプロジェクトですから。国の方針の中で我々が手上げ方式で、えー、ま、選択されるかどうかということでございましょうが、そういうことでやらして頂いておりますので。えー、そういう意味では、あのー、市民の代表である市会において、えー、予算の議決を頂きながら、それに基づいて検討を進めているということですので、そんなに、えー、ま、えー、ご理解をですね、ごめんなさい、ご理解を頂けるようにこれからも取り組んでいきます。また、先生方ともこのような議論を続けていければという風に考えております。(
青信号)」
古谷靖彦市議:「あのー、議論するのが必要だというのは同じです。ただですね、えー、その前にですね、決めてしまったのは市長の方なんです。で、そのことが問題だと言ってますし、そのことが、あのー、市民意思を無視しているという風に思われてるんです。そのことをですね、しっかり認識しないとですね、ずっとすれ違うという風に思いますし、国の方ばかり見ているということになります。」
まず、2段落目と3段落目以下のように論点をすり替えており、
赤信号とした。
【
2段落目】
【質問】カジノ是非を問う住民投票の所感
↓ すり替え
【回答】カジノ是非を市長が独断で決めたか
【
3段落目】
【質問】カジノ是非を問う住民投票の所感
↓ すり替え
【回答】カジノ是非で意見が割れていることの所感
「所感」という緩い聞き方をしているため、住民投票に関する所感を述べている1段落目と4段落目は青信号としたが、その中身には林市長の本音が見え隠れしていた。この回答(
青)の内容を要約して抜粋すると以下のようになる。
「IRに関する直接請求の動向は市民の皆様の一つのお考えである」
「今回のIRは、住民投票で決めることではない」
「ナショナルプロジェクトだから国の方針の中でやっている」
1点目で(住民投票条例の制定を求める)直接請求は市民の考えであると認めつつも、2点目で住民投票の結果は誘致方針に影響を及ぼさないことを明言している。さらに3点目では、
市民の声よりも国の方針を優先する姿勢を改めて明らかにしている。
そもそも現在の横浜市会ではカジノを推進する自民党と公明党の市議が過半数を占めているため、住民投票条例の制定を求めるために必要な署名(=有権者数の50分の1以上が必要で、横浜市の場合は約6万2千筆以上)を集めたとしても、議会で否決される可能性が高い。現に昨年9月20日には、カジノ補正予算案*は問題だらけだったにもかかわらず、過半数を占める自民党と公明党の賛成によって可決されてしまっている。
〈*このカジノ補正予算案の問題点については、約1年前の筆者記事「
今日午後にも可決濃厚な横浜カジノ補正予算案。その異常さを物語る12の事実」を参照ください〉
さらに、今回の林市長の答弁によって、
もし住民投票が実施されてカジノ反対の民意が多数を占めたとしても、その結果は誘致方針に影響しないことまで明確になってしまった。
筆者は横浜市に住んでおり、住民投票の署名集めが開始された9月以降、立憲民主党の神奈川県選出の国会議員などが休日に住宅街や駅前などをまわって住民投票の署名への協力を熱心に呼びかける場面に何度も遭遇した。だが、現時点で明らかになった以下の事実を踏まえて考えると、残念ながらこうした取り組みはカジノ誘致を止めることには繋がらない。
<住民投票ではカジノを止められない理由>
・もし必要な署名数(約6万2千筆以上)を集めたとしても、自民と公明が過半数を占める横浜市会で否決されるので、そもそも住民投票は実施される見込みが低い。
・もし住民投票が実施されて、カジノ反対が多数だったとしても結果に法的拘束力が無い。現に、2019年2月に実施された辺野古埋立ての賛否を問う沖縄県民投票では、7割以上が反対という圧倒的な民意を示したのに埋め立ては止まらなかった。
・その上、林市長は住民投票の結果を無視すると既に明言している。
一方、市長リコールの場合は必要な署名数が約49万筆以上*と桁違いに多くなるため、署名を集めるハードルは非常に高い。だが、それでも10月5日から署名集めが始まる市長リコールのほうがカジノ誘致を止められる可能性はあるだろう。
〈*市長の解職請求の必要署名数は、有権者総数が80万を超える場合、80万を超える数の8分の1 + 40万の6分の1 + 40万の3分の1の合計以上。横浜市の2019年7月の有権者数に基づくと490,285筆以上〉
カジノに反対する横浜市議も、「住民投票」ではなく、「市長リコール」を進める市民運動と手を取り合っていくべきなのではないだろうか?
<文・図版作成/犬飼淳>