「私たちは存在するし、バケモノではない」バイセクシュアルが直面する差別

バイセクシュアルの消去

 バイセクシュアルが直面する差別はこれだけではない。  英語圏で”Bisexual erasure“(バイセクシュアルの消去)と呼ばれている現象がある。これは、バイセクシュアル(特に男性)の存在自体を否定するもので、さらには同性愛と異性愛の「選択」を迫ることにもつながる。  その背景には、異性愛中心社会とLGBT+コミュニティが分断されている状況があると推測される。異性愛中心社会がLGBT+を外部に追いやるがゆえに、分断が強化され、「どちらかを選べ」という圧力が生まれることになる。

バイセクシュアルは存在しない?

「ごめんね、僕はバイセクシュアルなんだ」フレディ・マーキュリーは告白した。 「いいえ、あなたはゲイだわ」当時の恋人のメアリーはそう返した。  映画『ボヘミアン・ラプソディ―』に出てくるワンシーンだ。私はこのシーンを見て、とても悲しい気持ちになった。なぜフレディは謝ったりしなければならないのか、なぜカミングアウトした直後に自分のセクシュアリティを決めつけられたりしなければならなかったのか。  それは、「そもそも男性のバイセクシュアルは存在しない」という奇妙な言説が、一般社会においてもLGBT+コミュニティにおいても流布しているからだ。実際、新宿二丁目のミックスバーでも、私が「バイセクシュアルだ」と言うと、ひとりのゲイにこう言われたことがある。 「ああ、女性ならいるよね。男性でバイセクシュアルって言う奴は、ほとんどゲイだって認めたくないだけの奴だよ」  私は女性のバイセクシュアルだが、それでもひどく気分を害した。バイセクシュアル男性の知人は数人いるし、まるで彼らの存在自体を否定されたような気がしたからだ。   男性のバイセクシュアルだけでなく、女性のバイセクシュアルも消去されることがある。「偽物」「嘘つき」「半端者」、そんな言葉が影のようにバイセクシュアル当事者たちに付きまとう。
次のページ 
「私と付き合うなら、二度と男と付き合わないでほしい」
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会