バイセクシュアルが直面する差別はこれだけではない。
英語圏で
”Bisexual erasure“(バイセクシュアルの消去)と呼ばれている現象がある。これは、
バイセクシュアル(特に男性)の存在自体を否定するもので、さらには同性愛と異性愛の「選択」を迫ることにもつながる。
その背景には、異性愛中心社会とLGBT+コミュニティが分断されている状況があると推測される。異性愛中心社会がLGBT+を外部に追いやるがゆえに、分断が強化され、「どちらかを選べ」という圧力が生まれることになる。
「ごめんね、僕はバイセクシュアルなんだ」フレディ・マーキュリーは告白した。
「いいえ、あなたはゲイだわ」当時の恋人のメアリーはそう返した。
映画『ボヘミアン・ラプソディ―』に出てくるワンシーンだ。私はこのシーンを見て、とても悲しい気持ちになった。なぜフレディは謝ったりしなければならないのか、なぜカミングアウトした直後に自分のセクシュアリティを決めつけられたりしなければならなかったのか。
それは、
「そもそも男性のバイセクシュアルは存在しない」という奇妙な言説が、一般社会においてもLGBT+コミュニティにおいても流布しているからだ。実際、新宿二丁目のミックスバーでも、私が「バイセクシュアルだ」と言うと、ひとりのゲイにこう言われたことがある。
「ああ、女性ならいるよね。男性でバイセクシュアルって言う奴は、ほとんどゲイだって認めたくないだけの奴だよ」
私は女性のバイセクシュアルだが、それでもひどく気分を害した。バイセクシュアル男性の知人は数人いるし、まるで
彼らの存在自体を否定されたような気がしたからだ。
男性のバイセクシュアルだけでなく、女性のバイセクシュアルも消去されることがある。「偽物」「嘘つき」「半端者」、そんな言葉が影のようにバイセクシュアル当事者たちに付きまとう。