ステッキで殴られても百田氏にとっては「奴隷待遇ではない」
しかしこの主張は、果たして本当だろうか。
現在、徴用工問題で、最も資料的価値が高いのが、
日本炭鉱労働組合の「座談会記録」(『朝鮮人強制動員関係資料』②山田昭二編)だ。
コレは、戦前、当時の日本側の職員が、朝鮮人の待遇を語る希少な証言記録を編集した一冊だ。しかしそこには驚くべき証言が綴られている。皆さんにご紹介しよう。当時の朝鮮人の待遇について、一人の現場職員はこう証言する。
以下、朝鮮人の待遇について(抜粋)。
「本当に人間を扱う扱い方じゃなかったね」(朝鮮人強制動員関係資料②山田昭二編p61)
さらに括目すべきは、その暴力性だ。
「とにかく一番ひどいのは、労務の親方です。暴力を振るわなければ、寮長はつとまらない。私の知っている寮長はステッキを持ってピシツピシツやるわけですね。だからいつも生傷のあるものが、寮にいない、ということはない」(朝鮮人強制動員関係資料②山田昭二編p62)
ステッキでピシパシやられても、百田氏は「奴隷待遇」じゃないと言うのだから、一体どんなドМなのだろうか?
ちなみに百田尚樹の「給料は日本人と同一だった」という主張は、実際、本当だろうか。実はこれも事実の歪曲である。
当時の朝鮮人の給料実態を示す「
半島労務員統理綱要」を見れば、当時の給料の実態が分かる。これは、当時の日本人と、朝鮮人との給料を配分を指し示す希少な資料だ。しかしそこには日本人と、朝鮮人が、同一賃金であるという記述はない。むしろ逆で、
日本人と、朝鮮人の明らかな賃金の差が存在することを示しているのだ。
半島労務員統理綱要には、はっきりとこう記述されている。
「内地人の約80%の収入トス」(戦時外国人強制連行関係資料集p1271)
著名人の好き勝手な言論を鵜呑みにする、愛国ポピュリズムの危険性
朝鮮人の収入は日本人の「約80%」であったことが、この一例からも読み取れる。
このように百田氏の「日本人と賃金が同一だった」と言う主張は、資料を読めば、すぐに事実と異なることが分かる。
次は、徴用工の強制連行は、本当に「強制なのか」と言う問題。
この問題について、最も史料価値の高い調査を行ったのが、
林えいだいだ。
林氏は、その単著『
消された朝鮮人強制連行の記録』(明石書店)の中で、当時の日本兵だった老人にインタビューしている。著者の林氏が、当時の韓国人の強制連行について尋ねると、ある老人はこう答える。
「みんな行きたがらんから、部落で若い者を捕まえては、警察署の留置所に入れた」(『消された朝鮮人強制連行の記録』p265)
次に、徴用工は、応募工だったのか。と問うと、別の老人はこう答える。
「徴用工という制度が出来て、これは勤報隊と違って、強制ですよ」(『消された朝鮮人強制連行の記録』p450)
このように、当事者自身が、徴用工は「強制だった」と証言しているのだ。
有名人の発言を、有名作家だから、虎ノ門NEWSに出ているからといって「鵜呑み」にすることの危険性が伝わっただろうか。明らかな資料に裏打ちされた事実を飛び越えて間違った事実を喧伝するのが、愛国ポピュリズムの恐ろしさである。みなさんもくれぐれも騙されないように。
筆者はこれからも百田尚樹氏の”活躍”に注視していく所存だ。
◆新連載:保守系奇書・珍書(仮題)<1>
<文/ドリー>