さて、2020年夏のBTSについて、特にみてみよう。
7月15日には4thアルバム「MAP OF THE SOUL」を発表、8月21日に公開された新曲「Dynamite」のミュージックビデオは史上最速、24時間で1億PVに達した。同曲は9月1日には米ビルボードの「アルバムチャート200」で初登場1位を獲得、非欧米圏、アジアのアーティストとしては初の快挙を成し遂げた。
そして日本では8月26日、フジテレビ系列の「FNS歌謡祭」に出演、9月10日には音楽ドキュメンタリー映画「BREAK THE SILENCE: THE MOVIE」が上映される。BTSのファンにとって、充実の晩夏というところか。
一方で、BTSはまた“政治的”に揺れた。「#BTSのFNS出演に抗議します」というハッシュタグが大量に投稿、炎上したのである。抗議の理由は主に、18年に騒動になった原爆のキノコ雲があしらわれたTシャツを着ていたこと。
名の知られた人物では、たとえば吉田康一郎氏、竹田恒泰氏、黒瀬深氏らがこのハッシュタグをつけたツイートを投稿、共鳴している。18年の件ではテレビ朝日系列の「ミュージックステーション」への登場がキャンセルされたことも想起される。
しかし、一方で「#BTSのFNS出演を歓迎します」というハッシュタグも大量に投稿された。このハッシュタグをつけた投稿では、BTSに対する強い思い入れと、抗議のハッシュタグに対しての“ディスり”が多くみられる。BTSに救われた、という趣旨のツイートも多い。
シャツの件では所属事務所より謝罪があったのだが、原爆をこのようにあしらわれれば日本では反発が生じる。けれども一方でこのTシャツは、朝鮮半島にとっての日本の植民地支配からの解放となる光復節を表現したものであることも指摘しておこう。
問題を無化する「AllLivesMatter」との共通項
BTSを好むK-POPファンたちが世界的にBLMを支持していること、そしてBLMがどのような主張をしているのか、ということと、BTSの出演に反対するハッシュタグの間にあるものは何か、が問われるべきだろう。「#BTSのFNS出演に抗議します」は、日本における「#AllLivesMatter」ではなかろうか。
黒人の命が大事、というBLMの主張に対して「すべての命が大事」と対抗するのが「#AllLivesMatter」だ。一見、口当たりのいい言葉に思えるが、問題になっているのは黒人の命なのに、「すべて」を打ち出すのは焦点化している問題を無化することになる、BLMを否定するハッシュタグだ。
であればこそ、BTSのFNS出演に抗議する際、理由として原爆Tシャツの問題をずっと持ち出し、実際にBTSがどのような社会的アクションを行っているのか、彼らがなぜビルボードで1位を取れるのかを見ようとしないことと、一見口当たりのいい「すべての命が大事」で黒人が直面する問題を無化することには共通のものがあるはずだ。
2011年、エジプトでのアラブの春においてプロサッカーチームのサポーター集団、ウルトラスが果たした役割は大きかったという。BLMでのK-POPファンたちの動きもそれに比定できるかもしれない。
そして、BLMが浮かび上がらせたのは、K-POPとそのファンたちが作り出したのは、アーティストであるBTSすらその俎上から免れ得ない、世界スケールの相互の討論と批判の空間でもある。
<文/福田慶太>
フリーの編集・ライター。編集した書籍に『夢みる名古屋』(現代書館)、『乙女たちが愛した抒情画家 蕗谷虹児』(新評論)、『α崩壊 現代アートはいかに原爆の記憶を表現しうるか』(現代書館)、『原子力都市』(以文社)などがある。