世界的なK-POPの隆盛とBLMの繋がりは頻繁に指摘されるが、一方でレイシズムはK-POPのファンたちの間に繊細な議論を巻き起こす。
5月22日にBTSのメンバーSUGAのソロプロジェクトである「Agust D」によりリリースされた「D-2」のうち「What Do You Think」が、1978年に南米・ガイアナで918人もの大量殺人/自殺事件を引き起こした新興宗教・人民寺院の指導者であるジム・ジョーンズの1977年の演説をサンプリングしていることが問題になった。黒人の信者が犠牲者の多くを占めていたためだ。
黒人のファンがこのサンプリングを問題にすると、非黒人ファンとの間で軋轢が生じた。SUGAを擁護する人の中には、彼を批判した人たちブロックリストを作り、彼への忠誠心を問題にした人もいる。
SUGAと事務所は31日に「歴史的、社会的な文脈の理解を欠いていました。これにより傷ついた方、不快な思いをされた方にお詫び申し上げます」と謝罪を表明、曲を再リリースしたが、K-POPは世界の様々なものごとが持つ「歴史的、社会的な文脈」が引き起こす議論、軋轢と向き合っていくしかないだろう。
とはいえ、やはりK-POPファンの間にはBLMに限らず、デモクラティックなものに対する共感があるようだ。
今年5月に刊行された『BTSを読む』(キム・ヨンデ著・桑畑優香訳、柏書房)にあった一エピソードを紹介しよう。2018年のアルバム「LOVE YOURSELF 轉 “Tear”」のリリース(BTSの用語では“カムバック”)が5月18日だったのだが、この日は光州民主化闘争の起こった日でもある。光州民主化闘争とは、1980年5月18日に韓国の光州で発生した、韓国の軍事政権に対する民衆蜂起のことだ。
アルバムの発売日と光州の件は無関係ではあるものの、BTSの歌詞をボランティアで翻訳するチェ・ミョンジ氏によれば、「カムバックの日にはいつもTwitterでハッシュタグをつけてお祝いするので、韓国の事情を知らない外国のARMYが、気づかぬうちに民主化運動のハッシュタグををつけてしまうのではないかと心配でした。そこで、ブログに光州民主化運動についての英語の記事を載せ(中略)ハッシュタグで混同しないようにお知らせしました」という。
すると、「驚いたことに、世界中の多くのARMYが民主化運動に共感を寄せ」、ARMYたちがその後、自分たちの国の社会や民主化運動について語り始めたという。