JR東海の宇野護副社長。筆者の質問に対して「中下流域8市2町の地下水への影響はない」と明言した
連絡会議では、毎回JR東海の宇野護副社長が閉会後の囲み取材に応じている。その場で、筆者は以下のような質問をしたことがある。
――トンネル工事で、中下流域の8市2町の地下水への影響をどう考えますか?
「上流部で減水しても、それが100kmも離れた中下流域の地下水には影響しないと考えます」
――もし影響があった場合は、どうするのでしょうか?
「国土交通省の通知に従い、30年間にわたる補償を行います」
この場合の「補償」とは、井戸を掘り、地下水をくみ上げる揚水ポンプや貯水タンクを設置するなどして、それにかかる電気代を30年分一括で支払うということだ。
――31年目からはどうするのですか?
「こちらとしては、揚水ポンプなどのインフラは残すので、あとは自治体で努力してほしいと思います」
現実問題として、仮に30年に限ったとしても、「62万人分の生活用水や農工業用水の確保は可能なのか」という判断は筆者にはできない。電気代がいったいいくらかかるのかの算定もできない。一つだけ言えるのは、8市2町の中には島田市のように地下水利用が多い自治体もあり、その住民たちがJR東海の姿勢に不安を抱くのは無理もないということだ。
「水を守りたい」と、登山者や農業者らが原告に次々と参加
静岡県での訴訟で弁護団代表を務める西ヶ谷知成(にしがやともなり)弁護士
学習会では林さんがリニア計画の概要を説明した後、主任弁護士となる西ヶ谷知成弁護士が裁判の概要を説明。「ぜひ原告になってください」と会場に訴えた。
「これは差し止め訴訟です。差し止めを求めるからには根拠が必要です。大井川の水が減ることは、62万人分の生活用水、農工業用水、ウナギの養殖に悪影響が出る可能性があることです。それと南アルプスの環境破壊の可能性もある。これを裁判所に訴えていきましょう。原告になればいいことあります。裁判の原告席に座って裁判を生傍聴できます。そして、家族に自慢ができます!(会場笑)」
2020年7月24日。静岡県島田市で開催された裁判に向けての学習会の様子。80人の市民が訪れ、そのうち15人が原告になることを名乗り出た
林さんによると、求める原告団は100人体制。7月24日はまさしく原告ゼロからのスタートだった。この日、会場からは南アルプスを愛する登山者や農業者からも「水を守りたい」との声が上がり、さっそく15人が原告になることを名乗り出た。
加えて、2日後の26日は掛川市でも学習会が開催された。90人の住民が訪れ、新たに20人が原告に名乗り出たという。「とりあえず、提訴まで最低30人集まればいいか」と思っていた林さんたちには幸先のいいスタートとなった。訴訟の会では、今後も8市2町を巡り、同様の学習会を開催し、原告を募る予定だ。
<文・写真/樫田秀樹>