なぜ日本だけが囚われる「PCR検査抑制デマ」が生まれたのか? その根源に迫る

現実の数値、検体採取法から感度を計算する

 さて、確かに検体採取の制限から、SARS-CoV-2におけるPCR検査の感度は、痰で70%強、鼻腔スワブ液で60%強と高感度というわけではありません。鼻咽頭スワブ液は、痰に近い感度を持つようですが、保守的に65%強程度と想定します。唾も同様に65%程度と想定します。  但し、実際には感染してからの期間、発症してからの期間でこれらの値は大きく変動しますので、実際にはもっと高い値であること、低い値であることが生じますので、計算する上での便宜的且つ保守的(低い値)での想定となります。  さて、戦争で大砲を撃つときやミサイルを発射するとき、一発だけでは全く信用できません。大砲は命中率が低く、ミサイルは命中率がある程度高いのですが、故障したり外れたりします。その為、大砲でしたら同一照準でできるだけ多くの大砲を同時に撃つ、統制射撃が行われますし、ミサイルの場合は、基本的に単一目標に最低二発打ち込みます。これは大陸間弾道弾でも同様です。  一門の大砲の命中率が5%(実際にはもっと低い)だったとして、9門の斉射で命中率は、40%足らずとなります。勿論、砲同士の干渉を始め様々な確率低下要因がありますが、着弾観測も含めて確率を向上させるため、相手が逃げずに応戦してくれば数斉射で相互に命中し始めることになります。  確率的な事象で、必中を企図するならば、数を増やします。砲戦闘艦が、同一性能の大砲を載せられるだけ乗せるのはこれが理由です。筆者の大のお気に入りの合衆国海軍巡洋艦ウースターは、6inch自動両用砲12門を搭載し、夜目の利かない日本艦を砲撃でなぶり殺しにし、Kamikazeをハエのように叩き落とすはずだったのですが、就役は1948年と戦争に全く間に合わず、ジェット時代到来によって時代遅れとなり、わずか10年でお役御免となりました。
確率的事象で十分な確率が得られない場合は、数を増やすのが基本中の基本

確率的事象で十分な確率が得られない場合は、数を増やすのが基本中の基本
写真は、USS Worcester (CL-144)。砲戦闘艦の究極と言うべき船で、極めて高性能の6inch砲を12門、甲板上にズラリと並べている
photo by U.S. Navy Bureau of Ships via Wikimedia Commons(Public Domain)

 さて、保守的に見積もって痰70%、鼻咽頭スワブ液65%、唾を60%の感度として実際の合成感度を試算します。現実には、それぞれの検体のPCRでの感度はもっと高いという話ですが、ここでは敢えて保守的にゆきます。計算は簡単、失敗確率の積を1から引けば良いのです。なお、実際には学習と経験、純粋な独立試行ではない事から、もっと良い値になると考えられます。 多検体検査でのPCR検査の感度 痰と鼻咽頭スワブ液 90% 痰と鼻咽頭スワブ液と唾96%  このように適切な検体採取を行えば、90%を超える感度を持つことになりますし、実際そのように運用されています。原則として複数検体で運用されています。大阪府のように全検査1検体とすることがたいへん好ましくない理由がこれです。  とくに発症している人についてはPCR検査陰性の場合であっても経過観察の上で再度検体採取を行い、再検査を行えば、最低でも2検査4検体となり、感度は99%を超えます。これは医療検査の中では極めて高感度の部類になります。実際にCOVID-19発症者が、一回目のPCR検査では陰性で、医師の判断で経過観察の上で二回目の検査をしたところ陽性となった臨床例は論文等で報告されているとのことで、海外と同じくまともな運用を行えば、PCR検査の感度は100%に近いと考えて良いです。  但し未症状感染者が偽陰性となった場合は、発症しない限り見逃される可能性があります。これも「PCR検査結果の陰性は、必ずしも非感染を証明するものではない、発症したら直ちに再検査を受ける」という基本中の基本を被検査者に明らかにすることと、感染者との接触履歴のある検査陰性者は、接触日からの14日間の自己隔離を徹底するという海外では当たり前に行われていることを併用すれば、スプレッダを野放しにする可能性は十分に抑制されます。論より証拠、日本と合衆国といったコロナ大失敗国を除く多くの国々は、それによって大規模な第一次第二波パンデミックを起こしていません。豪州のように局地的に発生しても直ちに制圧を開始しています。中国やドイツなど、大規模な第二波のSurgeを起こしたと報じられた国々も徹底した検査と隔離によってわずか数週間で制圧してしまっています。  本邦では、「PCR検査を行えば、偽陰性者が街を出歩いてスプレッダになる。」という、ジャパンオリジナル・エセ医療デマゴギーが流布されていますが、検査をしなければ、膨大な数の無症状感染者が仕事も休まずにスプレッダになり、追跡不能感染者を激増させることは本邦を除く世界の常識と経験です。実際、追跡困難の院内感染が本邦の医療従事者を苦しめています。  とくにパンデミック収束期の大規模検査は、コロナ成功国、州の特徴で、収束期に大規模検査を徹底して行い、無症状感染者を把握、追跡、検査、隔離して行きます。日本はこれを完全に怠り第一次第二波パンデミックを全国で発生させていると言えます。まさに日本で進行中の第一次第二波パンデミックは、PCR検査抑制国策による人災であり、行政災害なのです。
ニューヨーク州の実効再生産数、日毎検査陽性者数、検査数、誤差等修正後の日毎検査陽性者数とその感染日・人数の推移

ニューヨーク州の実効再生産数、日毎検査陽性者数、検査数、誤差等修正後の日毎検査陽性者数とその感染日・人数の推移
ニューヨーク州は、人口1900万人である。第一波パンデミックでは、地上の地獄と化したが、収束に向かった5月中旬以降は、6万人〜7万人/日のPCR検査によって未発見感染者の把握と隔離を行ってきている。経済活動再開は、急がせようとする連邦政府の指示を無視して慎重に行われ、第二波パンデミックは生じていない。
RtCOVID-19より

誤ったベイズ推定の半分を訂正する

 さて、高校でも定期試験程度にしか出てこないようなこの確率問題、冒頭で引用した東大保健センターの誤った変数によるベイズ推定をきっちり訂正しましょう。ここまでで半分の訂正となります。
ベイズ推定を用いた根本的に誤った説明の感度に関わる項目の訂正

ベイズ推定を用いた根本的に誤った説明の感度に関わる項目の訂正
感度は実際の運用より二検体または三検体で保守的に90-96%としている。
特異度の項目(表右側)は次回訂正する。

 何やらずいぶん異なる数値となっています。さらに、既に説明したように、実際にはPCR検査の結果数字だけを見て判断しません。もし検査の結果だけしか見ない医者がいれば、そういうのを数字医者と言って患者は命がいくらあっても足りません。  医師は、患者の診察をして検査結果も使った上で判断します。例え検査結果が陰性であっても、感度の問題が頭にあれば、症状があれば、経過観察と再検査を提案します。そして防疫という保健所の管轄では、接触履歴を追跡し、もしも感染者との接触履歴または疑いがあれば、無症状でも14日間の自主隔離を求めます。  PCR検査についてのエセ医療デマゴギーは、そういった医療と防疫の働きを一切無視して、誤った変数を入れたベイズ推定で導いた誤った結果のみで「PCR検査をすれば医療崩壊」だのと言った荒唐無稽な国策翼賛医療デマゴギーを垂れ流してきています。  しかし、筆者のような完全な専門外の人間ですら自力で文献や感染研のマニュアルにたどり着けます。そして読めば世界の真相が分かります。  今回は、PCRエセ医療デマゴギーの核心のうち半分、高校生でも見抜ける感度の嘘について論じました。たいへんに長くなりましたので一旦ここで筆を置いて、次回はもう半分の特異度の嘘を論じます。 ◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ16 <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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