シリアで拘束された安田純平氏が日本政府に情報公開請求、ネットで拡散するデマに反論

一度流れたデマを消すことは難しい

シリアからの帰国後に会見を行う筆者

2018年、シリアからの帰国後に会見を行う筆者(左)

 会員制交流サイト(SNS)など、インターネット上の誹謗中傷が社会問題になっている。  罵詈雑言はいずれ沈静化することもあるが、一度流れたデマは何年たっても蒸し返され、あたかも事実であるかのように世の中に定着し、人は匿名でも実名でも堂々と誹謗中傷するようになる。無視しようと反論しようとデマを消すことはできず、言論によって解決することは事実上困難なのが実態だ。  2018年10月、シリアでの拘束から解放されて帰国した私は、SNSの匿名アカウントだけでなく、大手メディアや、ジャーナリスト、研究者などの肩書がある人々が、実名(署名)で根拠不明の情報を流していることを知った。  帰国後に行った記者会見の中で私は「私自身に対して批判があるのは当然。ただ、事実に基づかない批判もあるように思うので、あくまでも事実に基づいたもので批判していただきたい」という趣旨の要望をした。しかし、その後も根拠不明の情報が流され続けた。 「誹謗中傷」とつなげて使用されることが多いが、辞書を引くと「誹謗」とは他人を悪く言うこと、「中傷」とは根拠のないことを言いふらして、他人の名誉を傷つけることである。  前者は罵詈雑言の類で、後者は何かしらの具体的な事柄を根拠なく示す行為のことだ。事実に基づかないもの、根拠不明の情報を流して名誉を傷つければ、批判ではなく「誹謗中傷」ということになる。

「何回も人質になった」とは、いつの、どの国での話をしているのか

 挙げればきりがない数々の「誹謗中傷」の中で、特に看過できないのは「何回も人質になった」というものだ。 「複数回」とぼかす人もいるが、「3回」「6回」といった具体的な数字を挙げた人もいる。いずれの記事も「何回も」という部分を批判の重要な材料にしているにもかかわらず、「これは虚偽ではなく事実である」という具体的な根拠を何も示していない。 「そのたびに身代金を払ってもらっている」などと、これも何ら根拠を示すことなく当然の前提事実であるかのように書いている記事もある。まるで競うかのようにエスカレートしている状態だ。 「人質になった回数」の話題は、ほとんどが私への嘲笑の材料にされる。「誹謗中傷されるのは自業自得」「旅券発給拒否は当然」といった主張や、「何度も人質になっている無能なやつはジャーナリストではない」「自作自演だ」「身代金ビジネスだ」などと、記者としての能力だけでなくあたかも犯罪者であるかのような評価につなげられている。彼らが今さら「社会的評価を低下させるものでも、信用を毀損するものでもない」と言い出すとは思えない。  しかし「何回も人質になった」というのはデマである。まず、過去にメディアで「人質」と報じられたのは2004年のイラクでの拘束と、2015年からのシリアでの拘束の2回。その他に「人質」という報道は過去に存在せず、「何回も」がいつの、どの国での話をしているのか自分でもまったく見当がつかない。
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人質にされたのはシリアの1回だけ
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シリア拘束 安田純平の40か月

2015年6月に取材のためシリアに入国し、武装勢力に40か月間拘束され2018年10月に解放されたフリージャーナリスト・安田純平。帰国後の11月2日、日本記者クラブ2時間40分にわたる会見を行い、拘束から解放までの体験を事細かに語った。その会見と質疑応答を全文収録。また、本人によるキーワード解説を加え、年表や地図、写真なども加え、さらにわかりやすく説明。巻末の独占インタビューでは、会見後に沸き起こった疑問点にも答える

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