ロンドンのトラファルガー広場でのデモ(筆者の友人が撮影)
アメリカで黒人男性ジョージ・フロイド氏が警官に暴行されて亡くなった事件は、世界中に人種差別への抗議運動を巻き起こした。筆者の住むイギリスでも、事件のあった5月25日以降、毎週末ロンドンやその他各地で抗議運動のデモが行われ、テレビや新聞は
“ジョージ・フロイド”、“Black Lives Matter”(以下“BLM”=「黒人の命は大切」という意味)の文字で溢れた。
デモには数百人、数千人単位で人が集まり、
6月6日のロンドン中心部で行われたデモは2万人もの人が集まったとも言われている。事件から1か月以上が経った6月末の週末も、
「#Black Lives Matter」のプラカードを掲げた人々がロンドンなど各地で抗議活動を繰り広げた。
抗議デモや報道も一時のピークが収まった感じはあるものの、日々のニュースのどこかにはBLMに関する記事が必ず載っており、運動がイギリス社会に爪痕を残したことを感じさせる。
イギリスで#Black Lives Matter運動がこれだけ広がったのはなぜなのか。背景の1つは、新型コロナウイルスが人種間格差を鮮明化させたこと、そしてもう1つは
「ウィンドラッシュ・スキャンダル」といった人種差別に関する事件がすでに大きな社会問題になっていたことだ。その背景と、BLM運動がイギリス社会にもたらした小さな変化の兆しを以下に記したい。
イギリスでは、
黒人・アジア系とその他のマイノリティグループを総称してBlack, Asian and Minority Ethnic =BAMEと呼ぶが、
BAMEのグループは白人に比べて新型コロナウイルスの死亡率が高いということが調査で明らかにされている。
バングラディシュ系は白人よりも2倍、パキスタン系は2.9倍、アフリカ系黒人は3.7倍も病院での死亡率が高くなるという。この数字の要因として、
職業、健康状態、住環境などの社会経済的状況が、人種間で違うことが大きな原因だろうと指摘されている。
イギリスでは、医療・介護職や電車・バスの運転手などがコロナの状況下で“キーワーカー”と分類されているが、このような感染リスクの高い職業に従事している人の割合は、
白人の場合の21.2%に対し、アフリカ系黒人は32.6%、カリビアン系黒人は26.5%となっている。
また、長期疾患を持つ人の割合はBAMEグループの方が高いことも判明していて、新型コロナでの死亡率に影響していると考えられている。また住環境が悪く、人々が密集して暮らす家が白人より多いのもBAMEグループの特徴だ。このように、
人種間での社会経済的不平等が、コロナでの死亡率の差に反映している。
また、不況がどの程度人々の生活に影響するかという点についても、コロナは人種間格差を生み出した。例えば、飲食業などコロナ影響により閉じざるを得なくなった業種に務める人の割合が、バングラディシュ男性は白人男性に比べて4倍以上で、アフリカ系黒人とカリビアン系黒人も白人に比べてそれぞれ50%以上高いという。
また、黒人系とバングラディシュ系はイギリス社会で最も貯蓄が少なく、30%の人しか1か月の生活費を賄えるだけの貯蓄を持っていない。
このように、新型コロナによって「近年3世紀で最も不況下にある」と言われているイギリス社会で、命も生活もリスクにさらされているのが、黒人系をはじめとするエスニックマイノリティグループだ。コロナが人種間格差を鮮明化したと言えるだろう。