厳重な医療体制に自分自身は守られながら反科学的発言でパンデミック対策を妨害し続ける大統領とウイルスに屈しつつある米国の失敗

第二波パンデミックが明確になってきた南部・西海岸

 メモリアルデーの休日から三週間経過した6月半ばには、合衆国では南部、西海岸を中心に第一次第二波パンデミック*による新規感染者数のExponential Growth(指数関数的増加)が立ち上がり始め、今日ではそれが明確となっています。テキサス州(TX)では、医療への圧力が限界に達する寸前で、ハリス郡では既にICUの92.5%近くが占められパンク寸前に陥っているとCNN NEW DAYで6/25朝報じられるなどたいへんに深刻な事態に陥っています。6/23には、これまで経済活動再開に意欲的**であったテキサス州知事グレッグ・アボット氏(共和党)が市民に対してTV演説で外出自粛を要請するに至りました***。CNNなどが報じるところでは、テキサス州は再度のロックダウンなど3月末に立ち戻った厳しい社会活動抑制措置が不可避であろうと考えられています。 〈*一般に、今年1月から現在に至るパンデミックを「第一波」、今年10月から11月にかけて襲来が予想されるパンデミックを「第二波」と呼称してきたが、実際にはSpike(棘)やSurge(うねり)、Exponential Growth(指数関数的増加)を第二波と呼称するようになり、世界的に定着している。筆者は、暫定的にではあるが、混乱回避のために独自に現在のパンデミックを「第一次第一波」「第一次第二波」とし、秋に新たにやってくるパンデミックを「第二次」と分類、呼称している〉 〈**米テキサス州、いち早い経済再開を模索 検査に遅れも2020/04/18 CNN〉 〈***Texas Gov. Greg Abbott urges people to stay home as coronavirus surges 2020/06/23 The Texas Tribune
テキサス州における日毎新規感染者数

テキサス州における日毎新規感染者数(実線は7日移動平均)
4/9を境に増加数の伸びを止めていたが、新規患者数を減少させることができなかった。5/1から始まった経済活動再開を契機に5/27から明らかに増加に転じ、現在は指数間素敵増加を起こしていると見て良い
Worldometerより

 合衆国における第一次第二波パンデミックは、その中心をニューヨーク州(NY)からフロリダ州(FL)に移し共和党系の保守政権が多い南部諸州バイブル・ベルトと、西海岸を覆い尽くそうとしています。これらの州は、新型コロナウィルス・パンデミックが3月末の時点にまき戻って再開しており、極めて深刻な事態と考えられています。
フロリダ州における日毎新規感染者数

フロリダ州における日毎新規感染者数(実線は7日移動平均)
フロリダ州が全米で最も深刻な状況にあるとされており、合衆国における第一次第二波パンデミックの中心と考えられている
Worldometerより

カリフォルニア州における日毎新規感染者数

カリフォルニア州における日毎新規感染者数(実線は7日移動平均)
カリフォルニア(CA)(民主党)では、南部諸州と傾向がやや異なり、4月の社会的活動制限による効果が十分に出ないまま4月後半には再度増加に転じ、6月に入ると指数関数的増加に至っていると思われる
Worldometerより

制圧に成功しつつある「数ヶ月前の地獄」

 その一方で、3月には地上の地獄とまで言われるに至ったNYはじめ北部13州の大部分は、社会的活動制限の緩和を慎重に行ったため、欧州と同様にパンデミックの制圧に成功しています。NY州では、慎重に社会・経済活動再開が行われ6月下旬から店舗営業再開のロックダウン緩和第二段階に移行しています。新規感染者数の推移は、イタリアなどと同じく理想的なものですが、現時点でも1日800人の新規感染者が発見されており、欧州諸国と同じくPCR検査数を1日6〜8万件実施しており、ピーク時より減らしていません。これにより見逃した感染者を捕捉し追跡し新たな未知のクラスタを発生させないという極めて常識的な感染症対策が行われています。また市民のマスク着用率も高いとのことで、5月末から活発におこなわれたBlack Lives Matter(BLM)運動の影響が統計に表れていません。これらはアンドリュー・クオモ州知事のリーダーシップに拠るものが大きいと絶賛されています。  NY州の新規感染者数の推移は、本来とられるべきまともな対策が行われた場合に見られる傾向であり、模範的なものです。イタリアなどの欧州各国も同様に推移しています。  なおCNNによる6/26朝のビル・デブラシオNY市長インタビューによると、独立記念日あけの7月6日から、NY市ではロックダウン緩和第三段階へ移行し、観劇の再開も秋までには目指すとのことです。このインタビューで、NY州のPCR検査は常に陽性率2%以下を維持しているとのことで、感染症の制圧は今のところ順調と思われます。
ニューヨーク州における日毎新規感染者数

ニューヨーク州における日毎新規感染者数(実線は7日移動平均)
ニューヨーク州(民主党)では、欧州と同じく地上の地獄と言われるほどに深刻な状態に陥ったが、アンドリュー・クオモ州知事の的確な指示により徹底した社会的活動制限が行われ、莫大なPCR検査が行われている
Worldometerより

イギリス、フランス、イタリア、スイス、スウェーデンにおける100万人あたり日毎新規感染者数の推移

イギリス、フランス、イタリア、スイス、スウェーデンにおける100万人あたり日毎新規感染者数の推移(3日移動平均のため曜日変動が現れている)
スウェーデンを除き収束に向かいつつある。
英国は、社会免疫獲得政策破棄までの初動の遅れだけでなく医療システム温存のために膨大な市民を犠牲にした可能性がある。(ジョンソン首相の自慢は、NHSのICUがパンクしなかったこと)
本邦では、評価する論調の見られたスウェーデンの優生思想に汚染された社会免疫獲得政策は、完全に失敗し、破綻している。スウェーデンは、まだ地獄の門をくぐったばかりの段階である
Our World in DATAより

合衆国とイタリア、全世界における100万人あたり日毎新規感染者数の推移

合衆国とイタリア、全世界における100万人あたり日毎新規感染者数の推移(3日移動平均のため曜日変動が現れている)
地上の地獄から脱出したイタリアと比して指数関数的増加に戻った合衆国の異常性が際立っている。全世界では、中東、アフリカ、南米、合衆国などでのパンデミックを反映して増加中である
Our World in DATAより

 現在、NY州、ニュージャージ州(NJ)、コネチカット州では、三州連合で西部、南部8州からの訪問者への独自の検疫と隔離をすることを決めました*。結局、この三ヶ月間で完全に立場が逆転した形となっています。 〈*ニューヨーク州など東部3州、南部・西部8州からの訪問者を隔離 2020/06/25 BBC〉  この世の地獄を見たNY州をはじめとする成功した州や国は、WHOやコロナ対策タスクフォースの指示に則り、徹底した検査と隔離、追跡、治療を行い、社会的活動制限を厳格に行い、マスク着用を怠らず、数字=事実を正視しながら慎重に活動再開を行ってきた国であり州でした。  このことには、2020/06/26のCNN朝の番組NEW DAYでインタビューに応じたビル・デブラシオ市長も満面の笑みで次のように語りました。 「我々は地獄を見た。だから我々は政治の都合は一切排し、数字を見ることに専念してきた感染症との闘いは、数字だ数字=事実から目を背け、政治的都合を優先し、少しでも急げばその先には失敗がある。我々が成功した一方で、失敗した州(地方政府)は、事実を正視できず、政治的都合に捕らわれたのだ。」「社会活動再開の第三段階で、我々は訪問者を歓迎する。しかし、検疫と14日間の隔離はしてもらいます。」(筆者による要約)  新型コロナウィルス・パンデミックは、その挙動に地域性が強く表れるとされます。それを如実に示しているのが明暗をはっきりと分けた合衆国の各州といえます。  結局、ファウチ博士ら専門家、クオモ知事、デブラシオ市長ら地方政府の長らが主張し実践するように、新型コロナウィルスのような標準療法も免疫もワクチンもない感染症への対策は、数字=事実を正視し、基本「検査と隔離、追跡、治療、検査の繰り返し」に忠実であること*、正攻法である「社会的距離戦略、社会的活動制限、手の消毒そしてマスク着用」を根気強く行うことそれを主導するリーダーシップであることが如実に示されたと言えます。政治的都合や奇抜なアイデア、工夫、学術的合意を得られていない私説の持ち込みは極めて有害で、それにより歴史に残るほどの酷い失敗をした代表が、合衆国南部諸州とトランプ政権であったと言えます。(西海岸が失敗した理由は分析中) 〈*WHO事務局長、新型コロナで各国は「検査に次ぐ検査を」 2020/02/17 ロイター
合衆国全50州とプエルトリコでの新規感染者増減

合衆国全50州とプエルトリコでの新規感染者増減2020/06/25
南部バイブ・ルベルトと西海岸はパンデミックが再開している。一方で東部は一部を除きうまく制圧している。中部と西部については、6/20頃までは減少傾向が強かったが、状態が悪化しつつあり、今が正念場である。
4月下旬には、この図は殆どが緑色であった。
npr.orgより

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失策だらけのトランプ、「感染者増はフェイク」と言い出す
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