――小川議員は、安倍政権について「本質的に右寄りであるにもかかわらず、働き方改革等の中道政策を実施し盤石の体制を築いている」と分析し、自民党の党運営の上手さについても評価しています。ここまで分かっているのに、なぜ思うようにいかないのかという気持ちになりました。
大島:真っ直ぐ過ぎるということですよね。小川議員は清濁併せ呑むということがありません。
――確かに、香川3区の大野敬太郎議員(自民党)が、選挙区では1回しか当選していない1区の小川議員と選挙区で連続当選している2区の玉木議員を評して、「2人は全くタイプが違う。小川さんは真っ直ぐ。でも、玉木(雄一郎)さんは何でもやっちゃう」と言っていたと、政治ジャーナリストの田崎史郎さんが小川議員に伝えていましたね。
小川議員は新人議員の頃、陳情なども「そんなお金どこにあるの?」と全く受け付けていなかったというエピソードも披露されています。選挙を考えるとそこまでスパッと言える議員は少ないのではないでしょうか。
大島: 映画を見たという海部(俊樹)元首相の秘書を長くやっていたという方と話した時に「ホントにこんな人いるんですね」とびっくりしていました。その方は、映画を見た後、アポなしで議員会館に行って小川議員と直接話したそうなのですが、やはり真っ直ぐだったと。今時珍しい、共産党にいそうなタイプだと言っていましたね。
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――真っ直ぐ過ぎたらなぜダメなのでしょうか。
大島:政界がまっすぐな人が出世できない世界だからでしょうかね。だまし合い、権謀術数的なことも起きています。それこそ、小池(百合子)都知事みたいな人が出世するのではないでしょうか 。もしくは、安倍(晋三)総理か麻生(太郎)大臣のようなバックボーンが大きい人か。小川議員は正気を保つのが大変と言っています。「俺が俺が」という、権力欲のある人が集まり、そういう人が上に行く場所なんですね。
結局、自分の政策を実行したければ、地元の人たちに自分の政策を説くだけではなく、中央の党内政治を上手くやって重要ポストを獲得して発言力を高めなければなりません。そして、選挙区で確実に勝ちたければ、例えば地元企業を巻き込むなどして、平井陣営を突き崩してでも組織票を獲得しなければならなかったわけです。でも、小川議員はそういうことを全くしてきませんでした。
――正攻法で戦い続けて来たがゆえに勝てていないという面もあるのかもしれませんね。
大島:それは本人も日々感じているようです。ただ、それでも真っ直ぐな姿勢を変えません。
例えば、話し方にしても、小川議員は正確に物事を伝えようとするあまり、話が長くなりがちなんです。でも、支持が集まりやすいのは、端的に強い言葉を発する政治家ですよね。
小泉(純一郎)元総理、橋下(徹)元府知事、トランプ大統領などがその例です。小川議員は、風貌はスマートなのだから、彼らのような言葉を発すればそれだけで人気が集まって選挙で勝つこともできたのかもしれない。
そこで、今のままでは損をするのではないかとアドバイスしても、「性に合わないことをしてもメッキが剥がれるだけだから、そういうことはやらないしやれない」と言っていますね。
――映画を撮り終えた今、大島監督の考える「政治家に向いている人」「内閣総理大臣になれる人」とはどのような人か、お聞かせください。
大島:身もフタもない話ですが「運がいい人」だと思います。この世界は運の要素が大きいです。小川議員にしても、2017年の選挙戦前に希望の党へ民進党が合流しなければ、あのまま民進党の重要ポストにいて、ひょっとしたら政権を取っていたのかもしれません。
スポーツであれば勝敗、芸術であればヒットや受賞、企業経営であれば売り上げなど成功を判断する指標がありますが、政治には明確な指標がありません。どんなに長期政権であっても一定数は批判する人がいて、何をもって上手くいったのかは誰にも分からないようなところがありますよね。
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そういう世界で勝負に出て「世の中をよくしたい」と行動することはどういう意味を持つのか。答えが出ている映画ではないのですが、この映画を見て「政治とは、政治家とは何か」ということについて少しでも考えてもらえるきっかけになったらいいなと思いますね。