毎日新聞がツイッター社への抗議活動について意図的誤報。主催者「もう活動したくない」

毎日新聞社からの謝罪なき「事実確認」

 前出の毎日新聞社・写真部長のH氏が主催者女性に電話で話した内容を紹介したい。同社の姿勢や手口がよくわかるという点で、広報窓口を通した取材よりよっぽど「有意義」な内容だった。  電話は約20分間。H氏が慇懃な口調で主催者女性に伝えた内容は、要約すると以下のようなものだ(一部、実際の発言を文言通り引用)。 ・「弊社で行った取材で、少しご迷惑をかけてるようなことをお伺いしたので、お電話を差し上げているところなんですが。事実関係を少し確認させていただきたくて、お電話をさせていただきました」(電話の実際の発言ママ) ・後藤記者が掲載前に〇〇さん(主催者)に記事と動画のURLを送り、〇〇さんは「上手くまとめていただきありがとうございます」と言ってきたという報告を受けている ・「デスクがどうしてもと言った」と後藤記者が言ったかどうかについては、意見の相違であり言った言わないの話になるのでわからない(具体的にどう意見が相違しているのかは全く説明しなかった) ・「弊社のいま上がっている動画と原稿については、いまはどうしてほしいっていう風にお考えですか?」(同) ・「私もちょっと取材の仕方が少し足りなかったのかなと、まあ私の感想としてはそう思ってるんですが」(同)、「その辺は少しこちらの方で考慮させていただいて、今後の取材の、何ていうんですか、今後の取材に活かしていきたいなと思っておりますので」(同) ・「(記事を)取り下げられるものかどうかっていうのを少し検討させていただきます」(同) ・机上でニュースを組み立ててから現場の記者に取材させるということは、弊社ではしていない  おわかりだろうか。事実関係の確認だと言って連絡しておきながら、H氏が主催者女性に確認したのは、「上手くまとめていただきありがとうございます」と言ったではないか、という1点だけだ。  「デスクがどうしてもと言った」かどうかについては、H氏は「言った言わないの話」として片付け、詳細を確認しようとしない。女性が説明しても意見の相違だと言い張って受け付けない。後藤記者が取材時に全く話題に上っていなかった木村花さんについて敢えて持ち出して主催者女性にコメントさせた取材の手法や経緯についても、H氏は女性に事実確認をしていない。  筆者は同社への取材申し入れ書で、これらの一連の経緯についての事実確認も求めていたが、同社はハナっから確認する気などなかったというわけだ。  H氏の言葉遣いは一見、誠実そうではあるが、実際に語っている内容はかなりえげつない。  H氏は後藤記者の「取材不足」を認める発言を一応しているものの、「まあ私の感想としては」というエクスキューズを付けている。個人的感想であり社として公式に認めたわけではないという言い訳の余地を残す言い回しだ。「申し訳ない」とか「お詫びします」といった謝罪の言葉もそれに類するものも、「個人的感想」としてすら口にしなかった。  そもそも、この問題は「取材不足」によるものではない。現場に存在していない要素について、後藤記者が取材対象者に対して誘導尋問的に語らせ、それが趣旨であるかのように事実を違える記事を書いた。「取材不足」のむしろ逆で、「存在しないものを存在するかのように見せるためのよけいな取材」を行った結果だ。  H氏は被害を受けた側に対して「どうしてほしいのか」などと尋ねている。交通事故の示談交渉に来た保険屋さんのように、第三者気取りだ。繰り返すが、電話の主は毎日新聞社の写真部長。問題の当事者である毎日新聞社、つまり加害者側の人間である。  主催者女性によれば、動画を確認し「上手くまとめていただきありがとうございます」とした発言は、木村さんに関するコメントを使わないよう求めたことに対して後藤記者から修正を拒まれ、「デスクがどうしてもと言った」という話を聞かされた後のことだという。女性の説明通りだとすると、後藤記者がまず「デスクの指示」を理由に女性の要望を拒んで諦めさせ、その後に女性が「ありがとうございます」と言ったという点だけを写真部長があげつらって「同意したではないか」と突きつけているという構図だ。  まるでセクハラ問題を揉み消そうとするおっさん集団の手口ではないか。セクハラ被害者に対して「その後も加害者と笑顔で会話していたではないか」と言って泣き寝入りさせようとするのと同じ、セカンドレイプ方式の組織防衛術だ。実際に筆者は20年近く前、筆者自身が所属していた団体が幹部によるセクハラ問題を揉み消す際にこうした論法を取ったのを目の当たりにしたことがある。  そして写真部長H氏の会話の手口は、後藤氏による取材手法と同じ。相手から「言質を取る」作業である。「上手くまとめていただきありがとうございます」との発言を女性が認めたという言質を取る。女性が「記事と動画の削除を求めている」という言質を取る。女性の言い分は認めず、都合の悪い部分についての事実確認を避け、デスクの指示はなかったという点だけは理解しろと女性に念押しする。  女性は、電話でハッキリと反論している。 「私はでも、この耳でハッキリ聞いたので。『デスクが取ってこいと言ったので』っていう風に。『どうしても取ってこい』と。花さんのコメントを」(電話での発言ママ) 「じゃあそれは後藤さんが勝手に作った話ということ? 私、マスコミも素人ですし、こんな対応も素人ですし、私の頭の中に『デスクが言った』というような、物事の成り立ちがあるということ自体、私は存在自体を知らないわけですよ。だけど、このように言われて、『あ、そういうことがあるのか』と。『そういうことがあるのか』と思って、だからものすごく印象深い言葉として残っているんですよね」(同)  これに対してH氏は、こう答えた。 「正確にどう言ったかってのはあれとして、実際その、うちのデスクに聞いてみましても、ま、今回の件についても、他の件についてもそうですけど、もともとニュースを机上でね、机の上で決めて、それから取材を挙行するっていうことはなくて」(同) 「今回の場合は、やっぱり誹謗中傷と差別・レイシズムっていうのの明確な違いっていうのを記者が見抜けなかったという部分は、確かにあるのかなという風に考えてます。(略)その辺は少しこちらの方で考慮させていただいて、今後の取材の、何ていうんですか、今後の取材に活かしていきたいなと思っておりますので」(同)  これに対して女性は「わかりました」と答えた。  女性は「デスクの指示」をめぐる後藤記者の発言について説明しているのに、H氏は「正確にどう言ったかはあれとして」で片付け、「誹謗中傷と差別・レイシズムの違いを記者が見抜けなかった」問題に話をすり替える。そのまま「今後の取材に活かしていきますので」という言葉で女性に「はい」と言わせて一丁上がり。女性の言い分には一切同意せず、女性がH氏の説明に納得したかのような言質は取りましたよ、というわけだ。

「広報を通して」とだけ言った後藤記者からも女性には連絡なし

 一方、筆者の取材に対して「広報を通して」と言うだけで口をつぐんだ当の後藤記者からは、女性に対する連絡は一切ないという。当然、事情説明も謝罪もない。「言質を取る」のが仕事なのだから、逆に「言質を取られないようにする」のも大事な仕事ということか。 「言質は取っても取られるな」  毎日新聞社の標語にして社屋に垂れ幕でも出したらいい。  H氏からの電話の後、一連の毎日新聞社の対応も含めて、改めて女性にコメントを求めた。 「こちらが何も要求してないうちから、記事の削除を申し出てきたので、どういうことだろうと思った。そもそもどうして欲しいなど、現段階で考える余裕がないほど、疲れ切っています。それは先方にも伝えました。私はむしろ、記事の削除より、謝罪のほうがほしかったです。これではまるで私が“意にそぐわない記事を削除させた”と捉えられても仕方なくなりますし、第一、そんなことは正式に要求などしておりません。肝心のデスク云々というところが公になるのを嫌って早々に削除したとしか思えないし、そんな簡単に削除できる記事なら初めから書かなければいいじゃないですか。何もわからん素人だと思ってぽろっと口に出てしまった“デスクの指示”という言葉。これが今回の問題の本質であることは、この電話のやり取りでよくわかりました」  女性は毎日新聞社に抗議をする等の行動は一切とっていない。記事掲載後に自分から連絡を入れることすらしていない。抗議活動後に、それまでの準備の疲労や心労からか体調を崩し、点滴を受けるため病院に通っているという。毎日新聞社に対して抗議をする余裕がない状態だ。女性は、この件について何一つ騒ぎ立てていない。  私は今回、知人からの知らせで毎日新聞の記事の存在を知り、主催者の女性に連絡をとって私の方から事情を尋ねた。筆者の方から女性に対して、記事にさせて欲しいと頼んだ。言質を取ったのではない。きちんと明確な了承を得て、原稿内のコメントや事実関係についても確認してもらい了承を得て掲載している。 <取材・文・撮影/藤倉善郎>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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