毎日新聞がツイッター社への抗議活動について意図的誤報。主催者「もう活動したくない」

記事と動画を削除してトンズラ

記事削除後の毎日新聞の該当ページ

記事削除後の毎日新聞の該当ページ

 6月8日に筆者は毎日新聞の後藤記者に電話で取材を申し込んだが、「取材は広報を通してほしい」とのことだった。同日夕方、筆者は同社の広報担当者にメールで取材申し入れを行った。その時点で筆者が認識している経緯を記し、事実関係の確認と同社の見解を求めた。翌9日、主催者の女性は毎日新聞写真部長を名乗るH氏から電話で「話を聞きたい」との連絡を受け、夕方、折り返し電話をかけた。  電話の内容は後述するが、同9日の夜7時頃に毎日新聞はウェブサイト上から抗議活動に関する記事と動画を削除。筆者宛にメールで回答した。その内容はたった2文。 「取材の過程で行き違いがあることが判明しました。このため、該当記事はウェブサイトから削除しました」  筆者が送った質問項目に対する回答は、一切なかった。筆者は「今後の対応」については何も尋ねていない。毎日新聞社の対応は「聞かれたことに答えず、聞かれていない内容を告げることで、回答はしたという体裁をとる」というもの。事実上の取材拒否。記事を削除しての逃亡である。  主催者の女性に対する謝罪はなく、本稿執筆時点では訂正等も掲載されていない。記事や動画を削除して「なかったこと」にしたつもりかもしれないが、毎日新聞の記事に基づいて抗議活動の主催者や参加者をくさした者たちが誤りに気づく手段はなく、それらの投稿はいまもSNS上を漂っている(前出の山口弁護士は知人なので、筆者は直接、問題の存在は伝えた)。

主催者の意図と真逆なことに利用されかねない

 毎日新聞は、木村花さんの一件にからめることでウェブ配信する記事のPVを稼ぎたかったのか。あるいは、木村さんの死を発端にネット上の誹謗中傷に対する対策を推し進める声があるため、そういった議論を盛り上げることに利用したかったのか。  実際、毎日新聞のウェブサイトには、6月6日の抗議活動以前から、木村さんをめぐる誹謗中傷の問題とツイッターなどSNSの課題に関する記事がいくつも掲載されている(問題の重大さからして、それ自体は何ら不思議もない)。抗議活動の当日、6月6日の早朝5時には「不適切投稿者情報“任意開示”、判断難しい」 ツイッター日本法人部長「人員、システム強化で対策」と題してツイッタージャパンの服部聡・公共政策本部長のインタビューを掲載。抗議活動の翌日7日にも「権利侵害の有無、判断難しい」ツイッター日本法人、不適切投稿と「言論の自由」の板挟みに中傷投稿「開示の判断困難」 ツイッター社「監視強化し改善」として、服部氏への取材に基づく記事を掲載している。  いずれも木村さんの件にからめて報じているが、毎日新聞の記者(後藤記者とは別人)が木村さんの件について話を振りツイッター社側がそれに一言答えている程度。ツイッター社側から木村さんの件については一切語っていない。違反投稿の監視体制や対応の課題についての一般論を語っているだけだ。逆に、これらの記事の中で毎日新聞側が「新型コロナウイルスの感染拡大で医療従事者への差別的な書き込み」に言及しているものはあるが、人種差別に言及しているものはない。  このシリーズの真っ最中の6日昼過ぎにツイッター社前での抗議活動が行われ、毎日新聞は今回の誤報記事を同日深夜に掲載している。外見上、「ちょうどいいから、ツイッター社へのインタビュー記事と同じ調子で木村さんの件にからめて盛り上げようぜ」という流れに見えなくもない。  主催者の女性は、こう語る。 「花さんの事件があった後、政府が異様に早いスピードで規制強化に向けて動き出している。非常に危険な動きだと思います。明らかな差別、レイシズムなどに関しては規制をすべきだと思いますが、誹謗中傷までを含めると線引きが難しく、言論統制につながっていく危険も出てきます。私があたかも花さんの件についてツイッター社に抗議して誹謗中傷への取り締り強化を要求したかのように報道されると、その点で本末転倒になる私が納得いくいかないという気持ちの問題ではなく、私の考えとは全く逆の動きに私が加担することになるわけですから」  今回の抗議活動では主催者とは別の関係者のスピーチで、差別投稿問題と不当凍結問題という趣旨に関連して、ツイッター社が自民党と関わりが深い日本青年会議所と提携しているなど政権寄りの体質を持った企業である点にも言及され批判されていた。差別を批判するアカウントの多くが安倍政権に対しても批判的投稿をしてきた一方で差別発言をする保守系著名人のアカウントによるヘイトスピーチ等が放置されているTwitterの現状を、政権寄りあるいは右派優遇として批判するニュアンスも含んだ抗議活動だった。  「誹謗中傷」問題をめぐってはTwitter上で、公人である安倍晋三首相や安倍政権への批判を「誹謗中傷」だと主張する人々までいる。今回の抗議活動が政権による「誹謗中傷」規制を後押しする内容であったかのように報道されるのは、確かに本末転倒だ。  毎日新聞側がそれを意図していようがいまいが、今回の同社の報道はこうした問題も孕んでいる。
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毎日新聞社からの謝罪なき「事実確認」
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