毎日新聞がツイッター社への抗議活動について意図的誤報。主催者「もう活動したくない」

毎日新聞のウェブサイトに掲載された問題の記事(すでに削除)

毎日新聞のウェブサイトに掲載された問題の記事(すでに削除)

誤報に釣られSNSで主催者をくさす人々も

 6月6日に行われたツイッタージャパン社前での抗議活動について毎日新聞社が同日夜、抗議活動の趣旨について実際とは異なる内容を報道した。これについて筆者が抗議活動の主催者に事情を確認の上、毎日新聞社に取材を申し入れたところ、同社は翌日に問題の記事と動画を削除。こちらの質問に対して具体的な回答を一切せず、「取材の過程で行き違いがあることが判明しました。このため、該当記事はウェブサイトから削除しました」とだけ回答した。  実際の抗議活動は、Twitterにおける差別投稿やヘイトスピーチの放置といった「差別投稿問題」と、差別を批判する側のアカウントへのツイッター社による「不当凍結問題」に抗議する趣旨だった。しかし毎日新聞の記事は、先月亡くなったプロレスラー・木村花さんをめぐって現在問題されているネット上での誹謗中傷についての抗議であったかのような内容になっている。  現地でのスピーチやシュプレヒコールでは、木村さんをめぐる誹謗中傷問題は一切話題に上っていなかった。毎日新聞の後藤由耶記者のインタビューを受けた際も主催者はこれに言及していなかったが、後藤記者が敢えて無関係な木村さんのケースを持ち出して主催者に語らせ、さもそれが抗議の趣旨であるかのような記事を執筆した。  抗議活動を主催するのは今回が初めてという主催者の女性は筆者の取材に対して、「事前のコメント確認の際に異を唱えたが、後藤さんに受け入れてもらえず引き下がってしまった。掲載された毎日新聞の記事を見てショックを受けた。(コメント確認時に断固として拒否しきれなかった)自分が世間知らずだった。もうこういった活動はしたくない」と語っている。毎日新聞社への抗議や記事の削除要求等は表明していない。  毎日新聞が削除した記事の全文は、以下の通り。
“毎日新聞:「憎悪や差別の投稿放置は暴力への加担」 ツイッター社前で100人が抗議  毎日新聞2020年6月6日 22時39分(最終更新 6月6日 22時39分)  ツイッター上の個人への中傷や差別的な投稿などを速やかに削除し、安心して使えるように運営してほしいと、市民ら100人が6日、東京都中央区のツイッタージャパン本社前で抗議活動を行った。  先月、急死した女子プロレス選手の木村花さんのアカウントに多数の中傷ツイートがされていたことについて、抗議を呼び掛けた大阪府の主婦、○○さん(50)は「木村さんは(投稿に)殺されたようなもの。憎悪や差別のツイートを放置することは暴力への加担だ」と厳しく批判。また、米ミネソタ州で発生した暴動に対し武力鎮圧を奨励したトランプ米大統領のツイートに「暴力を美化し、利用規約に違反する内容」との注釈を掲載した米ツイッター社を引き合いに出し「ツイッタージャパンも倣ってほしい」と訴えた。  参加した在日コリアンの会社員、●●さん(65)は「在日コリアンと分かるアカウントはヘイト投稿の標的になるので、ツイッターをやめる人も多い。ヘイト投稿の放置はマイノリティーの声を潰すことにもなる」と話した。  ツイッタージャパンは毎日新聞の取材に、「安心して利用できる環境の整備に努め、より健全なサービスを提供することにこれまで以上に注力していく」とコメントした。【後藤由耶】”
※記事中の「○○さん」は主催者及び被取材者の氏名。「●●さん」は別の参加者の氏名。筆者が伏せ字とした。記事の転載は主催者及び被取材者の了承を得ている。  同社の報道を受けて、「カルト問題」や「表現の自由」関連の活動で知られる山口貴士弁護士はTwitterとFacebookで「他人の死を利用する反ヘイトの方々」と投稿。決して多くはないものの他のユーザーからも、毎日新聞の報道をもとに抗議活動を疑問視する投稿が見られた。 〈そもそも木村花さんが受けてた言葉の攻撃媒体ってInstagramだったはずなんで、何故Twitterに行ってるのか意味不明〉 〈木村花さんに対する誹謗中傷の主な場はTwitterじゃなくInstagramだったはずだが。。。 この程度の雑な認識で社会を変えようとしないで欲しいわ。。。〉  木村さんへの誹謗中傷はTwitter上でも行われていた。しかしそれはそれとして、毎日新聞の報道が、抗議活動を愚かな活動だと捉える人々を生み出した。主催者だけではなく抗議に参加した全ての人々の声を蔑ろにする報道で、主催者・参加者への非難や誹謗中傷が殺到する「炎上」に至らなかったのは不幸中の幸いだ。  SNS上で抗議活動を腐した人々も、大手新聞社による映像付きの報道を見て、まさかここまで極端に事実に反する報道だとは、通常はなかなか想像できないだろう。決してメディアとの付き合いが浅いわけでもない弁護士ですら、これなのだから。  日頃から反差別運動やその関係者を腐したいという意識を持っているがゆえに、嬉々として毎日新聞の報道に乗っかった人も中にはいるかもしれないが、全ての原因と責任は毎日新聞にあり、上記のSNSユーザーたちはそれに釣られただけの、これもまた被害者だ。  

無関係な話題について言質を取る取材手法

主催者女性にインタビューする毎日新聞の後藤由耶記者(左)

主催者女性にインタビューする毎日新聞の後藤由耶記者(左)

 筆者もこの抗議活動を取材しており、毎日新聞の後藤由耶記者による主催者女性へのインタビュー途中から、すぐ脇で聞いていた。改めて、現場でのやり取りの詳細を振り返ってみたい。  女性が後藤記者にデモの趣旨について説明し、「大阪からツイッタージャパンに乗り込んで抗議してやろうと思って来ました」と語った後、後藤記者の方が唐突に、木村花さんの死去の件を持ち出した。以下が、質問時の後藤記者の全発言である。 「もともとTwitterユーザーなわけですよね。で、たとえば、最近でいうと、ヘイトだけではなくて、凍結だけではなくて、その、プロレスラーの(木村)花さんに対する暴言とか、放置されているという問題もありますけども、そういう部分で、ユーザーとして日々感じている違和感みたいな、おかしさみたいなものも含めて、ちょっと教えていただけたら」  筆者がこの場に居合わせたのは後藤記者のこの発言の直前からで、その前のやり取りは聞いていない。しかし「ヘイトだけではなくて、凍結だけではなくて」という後藤記者の口ぶりから、抗議活動の趣旨説明に含まれていなかった木村さんの件を持ち出していることがわかる。「ユーザーとして日々感じている違和感」と称して尋ねている点とあわせれば、後藤記者が抗議の趣旨でないことを承知の上で、女性に対して主催者の見解と別途く「個人的意見」を求めているだけであるかのように装って主催者を油断させようとしていたこともわかる。  後日女性は筆者の取材に対して「花さんの件はもちろん重要な問題ですが、あの日のツイッター社への抗議の理由ではなかったので、何と答えていいかわからずものすごく悩みながら答えた」と語った。このことは、後藤記者の問いに対する女性の発言を見ればよくわかる。以下、その部分の全発言だ。 「特に日本は、ヘイトほど野放しにされている。憎悪とかそういうものは野放しにされていて、逆に凍結理由がないアカウントとか、物申すアカウント、影響力があるアカウントばかりが凍結されるという事態が、ここ最近ではなく、ずーっとここ何年か続いていると思うんです。それに対して、ツイッタージャパンというのは一応公的な機関ではなく私企業だと思うんですが、世界中で言論のプラットフォームとして大きな役割を担っている。アメリカなんかでは、トランプ大統領に対しても規制をかけるという、暴力や差別というものにはきちんと言論プラットフォーム、ツイッターは戦うんだと明確にしていたにも関わらず、全く違うというか最悪の対応をするツイッタージャパンに対して、言葉は人を殺しますから、それを放置しているということは、どうなんだろうと。企業倫理としてはあり得るのかなって。一つ一つの言論を取り締まっていくということは非常に難しいことなのかもしれないけれども、こうやって花さんが殺されてしまった、殺されてしまったと言って過言ではないと思うんですけれども、そういう憎悪というものを放置しているとか、差別のツイートを放置しているとかいうのは、暴力に加担していると言われても仕方がない対応なのではないかと。ありえないですよ。このクソ野郎って言いに来ました」  女性が、抗議活動の本来の趣旨から外れないようにしながら、何とか記者の質問に応えるべく話をつなげたといった流れだ。毎日新聞が記事や動画で木村さん関連のコメントとして(あるいはそうであるかのような位置づけで)利用したのは、上記の太文字の部分(“言葉は人を殺しますから、それを放置しているということは、どうなんだろうと。企業倫理としてはあり得るのかなって”、“こうやって花さんが殺されてしまった、殺されてしまったと言って過言ではないと思うんですけれども、そういう憎悪というものを放置しているとか、差別のツイートを放置しているとかいうのは、暴力に加担していると言われても仕方がない対応なのではないかと“の2箇所)である。  インタビュー後、主催者女性はマイクを持ちスピーチをしている。そこに、木村さんに関する話題は一切登場しない。スピーチの全文は、6月8日付け本誌差別野放しで反差別アカウントは凍結のツイッタージャパン社に100人が抗議に掲載している。  約100人の参加者たちが掲げたプラカードにも、木村さんの件でツイッター社を批判するものはなかった。筆者が記憶していないだけで実際にはあった可能性は否定できないが、いずれにせよ抗議の主要趣旨である差別投稿問題と不当凍結問題に関するプラカードが大半だった。毎日新聞が掲載した動画にも、木村さんに言及したプラカードは映っていない。こうした抗議活動の一部始終を、後藤記者も当然、現地で見ている(動画を撮影していたのだから当然だ)。
主催者(中央)のスピーチを撮影する後藤記者(左)

主催者(中央)のスピーチを撮影する後藤記者(左)。スピーチにも参加者たちのプラカードにも、木村花さんの話題は全く登場していない

 現場で飛び交う様々な意見や論点の中から、どれを重視するかという判断の問題ではない。現場を取材した後藤記者が「誤解」する要素も一切ない。後藤記者は、抗議活動と無関係であることを承知の上で、主催者に対して自ら敢えて木村さんの件を持ち出して喋らせる「誘導尋問」を行い、それが抗議の趣旨であるかのように報じた。判断ミスでも誤解でもない。意図的な「取材対象者を騙して協力させたヤラセ報道」、あるいは「捏造」と言っても過言ではない。  詳細は後述するが、主催者女性は記事確認時に内容に異を唱えたが、後藤記者に「デスクがどうしてもと言った」と押し切られたという。この説明が仮に事実だとすると、組織ぐるみのやり口ということになる。  後日、女性は筆者に、こう語った。 「花さんの件はとても痛ましく重大な問題。“今日の抗議活動と関係ない。知らんがな”みたいに突き放せる話題ではありませんよ。それで、悩みながらも答えたのに、(こういう報じ方をする)マスコミってひどい。私はマスコミ対応なんて初めてですし、やめてくれと言っても“デスクの指示だ”と言われて拒まれたら、会社の決定なのだと諦める以外にないじゃないですか。もう落ち込んで落ち込んで……。こういった運動は、私にできることじゃないです」  こうした取材手法と報道によって、市民運動の当事者の意欲を削ぐ。毎日新聞が民主主義社会におけるメディアの役割を自らが破壊する行為ではないのか。
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記事と動画を削除してトンズラの毎日新聞
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