ミニシアターの文化的意義を振り返る。コロナ禍で閉館が危ぶまれるなかで
初めて無声映画を見た渋谷・シネマヴェーラ
シネマヴェーラは邦画も洋画も上映するが、「映画史上の名作」として初期の海外映画――たとえば1920年代から30年代の西部劇や、ハワード・ホークス、アルフレッド・ヒッチコックといったハリウッドの巨匠の初期作品を定期的に上映することに定評があり、音のない無声映画をここではじめて見たという観客も決して少なくはないだろう。筆者にしてもまた、「アメリカ映画の父」と呼ばれるD・W・グリフィスの代表作『イントレランス』(1916年)や、ドイツの巨匠フリッツ・ラングが日本文化に題材をとった『ハラキリ』(1919年)などといった無声映画の名作を、ここではじめて見ることができた。
個人的に心に残っているのは、2018年2月に行われた「戦後映画史を生きる 柳澤壽男監督特集」。柳澤は小川紳介・土本典昭とならぶドキュメンタリーの巨匠と呼べる存在だが、小川や土本と比較し、上映される機会はきわめて限られていた。いわゆる「シネフィル」でも、彼の名前を知っている人もまた少なかったと思う。
しかし、彼の作品群は一般的に代表作と目される『夜明け前の子どもたち』(1968年)『ぼくのなかの夜と朝』(1971年)のような福祉を題材とした作品に留まらず、記録映画やPR映画、またフィクション作品など多彩な広がりを見せており、さらにはその根底にあるのは、松竹のスタジオで培った伝統的な演出技法だった。その意味では「戦後映画史」というタイトルは決して誇張ではなく、この上映によって、自身に欠けていた日本映画史のピースのひとつを埋められた、という観客も、決して少なくはなかったのではないだろうか。監督自身の知名度は決して高くなかったにもかかわらず、期間中に筆者が目にした劇場の入りは、いずれも多いものだった。
コロナ収束後の再開を目指して
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