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4月28日、米国での新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者がついに100万人を超えた。感染症による死者も5万8000人を上回り、いずれも中国を抜き世界最多だ。米国での感染者数は世界全体の約3分の1を占める。
米国全体での感染拡大の分析は専門家に譲るとして、ここでは米国の食を支える現場で起きている爆発的な新型コロナウイルス感染と、その背景にある先進国のフード・サプライチェーンの問題をお伝えしたい。
3月13日、米国政府は国家非常事態宣言を発令した。学校の閉鎖、商店の一斉休業、在宅勤務の指示、不要不急の外出禁止と2週間の自宅待機令(後に4月末まで延長)により、全米で一気に緊張感が高まった。
それから約2週間後の3月下旬、米国の食肉処理工場で最初の感染者が出た。全米各地に多数存在する工場は、国家非常事態宣言の後も通常通り操業が続けられていたのだ。
3月23日、ロイターは米国で3番目に大きい食肉加工企業である
サンダーソンファーム(Sanderson Farms) が所有するミシシッピ州マコームの工場で感染者が出たと
報じた 。同社のウェブサイトによれば、この工場では週に130万羽分の鶏肉が処理されている。これは同社全体の処理数の約9.5%にあたるという。
その後、4月に入ってから食肉処理工場での感染者は爆発的に増加していく。米国最大の食肉企業の一つ、
タイソン・フーズ(Tyson Foods) やJBS、カーギルなどの大規模な処理工場は、一つの工場に2000~6000人の労働者を抱えるが、その工場で感染者が増えていったのだ。これを受け、4月に入り各社は工場を次々と閉鎖せざるを得ない状態となった(図1・表1)。
なぜ各地の食肉処理工場で感染がここまで拡大したのか。その背景には工場の労働環境がある。そもそも米国の工業化された食産業は、低賃金の移民労働者によって支えられている。食肉処理工場はその代表例で、メキシコはじめ各国からの不法移民を含む数百人規模の労働者が、狭い空間で密集して長時間労働を行う。昼食の時間も狭い食堂で数百人が大皿から食べ物を取り肩を並べて食べることも多くある。
国家非常事態宣言が出された3月13日以降も、食肉処理工場の操業は通常通り続けられた。その後、労働者の感染が確認された後でさえも、多くの工場では労働者にマスクなどの個人防護具も提供せず、発熱などの症状を訴えても休むことができないなど、劣悪な環境は続いたという。当然、ほとんどのケースでウイルス検査もなされていない。これらが折り重なった結果、食肉処理工場が「クラスター化」したのである。中には一つの食肉処理工場で700人が感染するという、米国最大の集団感染も引き起こしたケースもある。