日本で育ったのに、大人になると突然理由なき「収容」。「人間扱いして」と訴えるクルド人女性

「どうか、仮放免者も人間扱いしてください」

メルバンさんと弟

メルバンさんと弟。写真は本人提供

 彼らは、夫婦とはいっても入籍はしていない。メルバンさんは「自分と入籍したことで、もしかしたら夫のビザも取り上げられてしまうのではないか」と不安を感じている。子供も早くほしいが、今の体の状態ではとうてい叶わない。  メルバンさんは、今は専業主婦として家にいる。高校を2年で辞めたことをすごく後悔している。努力してせっかく受かった高校だったが、入管職員に「ビザのないあなたが高校に行ったところで意味がない」と言われ、そのショックで辞めてしまった。「今からでもいいから、行けるものなら学校に行って通訳になりたい」という。 「人に助けを求めたり、お願いしたりするのにもう疲れた。ビザを取得して、自分で何でもできるようになりたい。自分で働いて何とかしたい。いま住んでいる埼玉県から出られない(仮放免者が県境を越えるには許可が必要)のが辛い。これでは生きている意味がない……」とメルバンさんは言う。ビザがないと銀行のカードですら作れないのだ。 「自分の弟や、他のクルドの子供たちには、私のようになってほしくない。大人になり、収容されて人間扱いされないなんて酷すぎる。  自分がいちばん言いたかったのは、10万円の給付金を仮放免の人にもあげてはもらえないものだろうかということ。私の場合は、まだ夫にビザがあり生活は何とかなっているけど、私の周りにいる親戚や友人、その子供たちは、どうしても生活が苦しい。  仮放免者も人間です。日本で生きているんです。どうか同じように扱ってください。どうか人間扱いをしてください」(メルバンさん)

これは彼女たちの問題ではなく、日本の問題

 今回のインタビューでは、何度も「人間扱いしてほしい」と言う言葉が繰り返された。 収容は地獄だが、解放されてもビザがないかぎり問題は後を絶たない。メルバンさんの苦難はいつ終わるのか。  同じくビザのない子供たちも同じように残酷な未来が待っているのだろうか。日本に生きる我々がさらなる問題意識を持ち、変えて行かなければいけないのではないだろうか。彼女たちではなく、これは彼女らを追い詰める日本の問題ではないだろうか。 「『トルコに帰りなさい』と言われますが、私は帰りません。日本が自分の国だと思っています」(同)  メルバンさんの意思は固い。 <文/織田朝日>
おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)など。入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)を2月28日に上梓。
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