政治的な抗議・告発が大半を占めた2020年のカーニバル
エスコーラの団旗と、採点中40点を担う“顔”である男女ペア・ダンサー役
日本では「リオのカーニバル」と言えば、単に煌びやかで豪華絢爛なファンタジーによる、楽しいサンバ・パレードと思われがちだ。しかし、
昨年のレポートに続くかの如く、2020年のトップリーグ12エスコーラ(チーム)中、なんと8エスコーラが表現したのは「ブラジルの特権階級支配型社会への、持たざる階級からの抗議的な内容と悲哀」、「階級格差社会・人種差別への抗議」または「伝統的に腐敗がはびこる政治体制への痛烈な批判・告発」などの内容が織り込まれたテーマだった。
このようなプロテスト的なパレード・テーマ曲は昔から存在していて、「サンバという文化自体が、そもそも旧アフリカ系奴隷民たちによるレジスタンス文化」なのだ。しかし近年はこれまでになく、その度合いが強まっている。そしてリオに限らず、世界につながるさまざまなグローバリゼーションと新自由主義の弊害と実情がカーニバルにも表われていると言える。
そもそも、世界各地からの大移民史・混血の歴史によって構成される「多様多彩な多国籍大国:ブラジル」の歴史とは、そのルーツである先住民〜世界各地の歴史事情まで巨大な規模で直結している。
“アメリカ合衆国本土よりも大きい面積”を持つ大国ブラジルにはさまざまな先住民族の大地に西欧・北欧・南欧・東欧・アフリカ大陸各地・中東各地・ユダヤ系民・各アジア系民にいたるまでが流れ込み、多様で複雑な社会を構成している特殊な国だ。
ポルトガルから始まった15世紀の大航海時代以降、奴隷船でアフリカからブラジルへと拉致・連行された歴史を表す山車が登場
日本でも分かりやすい例をあげると、日産自動車のCEOを務めたレバノン系ブラジル人、カルロス・ゴーン氏。サッカー日本代表でも活躍した田中マルクス闘莉王選手。彼は日本からの移民とイタリア系からのブラジルへの移民の両親を持つ。
サッカーW杯時には各祖国の代表メンバーに名を連ねる二重国籍のブラジル人選手たちがいることを思い出すと“特殊なブラジルの事情”を少し想像していただけるかもしれない。「移民とともに、まさに世界各地の祖国に通じる国」、そんなブラジルだからこそ存在し、象徴的な地上最大の祭が「リオのカーニバル」。多様性の象徴であり、共有、共感、共生の文化なのだ。
いろいろな肌色のブラジル人ダンサーたち。各エスコーラに50名ほどいるのが「パシスタ」と呼ばれるダンサーの一団。トップダンサーとして、各エスコーラに1名の女王ダンサーがいる
ギネス公式記録、世界最大の祝祭である「リオのカーニバル」(ブラジル連邦共和国・リオデジャネイロ州・同市)。今年は昨年の約160万人を上回り、約210万人の観光客を動員。昨年に比べレアル安(ブラジルの通貨)となったが、それでも約1000億円を越える経済効果をもたらし、記録を更新した(民間リサーチ会社、リオ市当局の公式発表と主要メディアによる調査と発表)。
ちなみに、東京都台東区の「浅草サンバカーニバル」が本場と比較に値しないほど小規模なものにもかかわらず、毎年「50万人の人出・来場者」という不正確極まりない公式発表を続けている(実際にはその1%にも満たない観戦者数のはず)のに対し、世界的な本物のリオのカーニバルが「約210万人」とは、いかにミニマムかつ正確な発表をしているのかが伺えるのではないだろうか。
参考までに、日本の5大ドーム公演(東京・札幌・大阪・福岡・名古屋)をすべてしたとしても、合計動員数は約19万9000人だ。日本を代表する大規模野外フェス「フジロック」でさえ4日間の合計が約13万人だ。日本ではまず体験することができない規模・内容・多様な世界観によるクリエイティブ、スペクタクルがリオのカーニバルにあることがイメージできるだろう。