緊急事態宣言に対して異議を唱える国民は少数派だ。逆に宣言自体が遅すぎると言う声が大きいほどだ。なぜなら、この1月からコロナウィルス問題はひとりひとりの生活と健康、いや命に関わる個人の最大の関心ごとであり、最重要の国内問題でもあるからだ。
1月に隅田川の屋形船で新年会を開いたタクシードライバーや東京と関西を結ぶ中国人観光客を案内したドライバーやガイドなど、国内でコロナウィルス 感染者が出てからは、中国武漢で起きた他人事から自らの問題となった。それから3か月近く、私たちはマスクの着用やアルコール消毒、手洗いなど行動様式を一変させた。
2月6日に横浜港に大型クルーズ船、ダイヤモンドプリンセス号が着岸してからは、報道や情報番組のほぼ全てがコロナウィルス問題一色になった。2月27日には首相自ら「ここ1、2週間が極めて重要な時期」とし、地方自治体に小中高の休校を要請し、3月2日からほどんどの学校教育がストップした。
国民のコロナウィルスに関する自粛にアクセルが入る。前日の2月26日には全国規模の大型イベント、スポーツ、パフォーミングアーツなどの自粛が求められ、ほとんどのものが休止となった。首相が極めて重要な期日の開けた3月16日ごろから一部で再開されたが、すぐさらに10日間の自粛延長を求められた。大相撲など無観客で開催されたものもあったが、戦後初の中止に追い込まれたセンバツ高校野球などほぼ全てのパフォーミングアーツ、スポーツイベントなどがそれから中止となったままだ。重要な時期は1・2週間ではなかったのだ。
こうして、国民は緊急事態宣言が出るまで3か月近く自粛と我慢の毎日を過ごしてきた。マスクや消毒液が品切れになっただけでなく、トイレットペーパーから食料品まで先の不安を思ってかスーパーなどで少し多めに買い物をする人が増えた。中には不安に耐えきれず必要以上に買いすぎた人もいる。人々は外出や旅行、スポーツやコンサートなどを楽しむこともできなくなり、外食も消費も抑えるようになった。何しろ年に一度の花見を今年は歩きながらする人が多く出た。それでも気が緩んでると批判が起きたほどだ。
もちろん経済にも多大な打撃を与えている。深刻なのはひとりひとりの個人の収入だ。
今や働く人の約4割、2000万人以上が非正規労働者の日本。最初にインバウンドも柱の一つとなっている観光業が壊滅状態になった。外国人だけでなく日本人も旅行をしなくなった。このため航空、鉄道、バスなど交通、宿泊施設全体が大幅な減収となっている。外食産業はそれでなくても来客が減る2月ではあるが、例年以上に客足は急速に落ち、歓送迎会のある3月に持ち直すかと思いきや本格的な自粛が始まりさらに落ち込んだ。そこで働く人は勤務時間が減らされ、中には解雇され収入が激減した。
製造業では中国など海外のサプライチェーンから部品の納入が止まったり需要そのものの落ち込みで減産や製造中止となり、真っ先に非正規労働者らが雇い止めなどの煽りを食らった。
パフォーミングアーツやスポーツなどに関わる人たちも現場があって初めて収入となる人たちだ。俳優や選手、演奏家だけでなく、舞台設営、照明、会場案内、業種は多岐にわたる。前年比で8割、9割の所得が減ったと言う人は珍しくない。そして、すでに5月以降のイベントや興行も中止が発表されている。
こうした非正規労働者だけでなく、正社員として働く人からもため息が聞こえてくる。通常は支払われる残業代がテレワーク、リモートワークの場合には払われないことが多く、実質の手取りが大きく目減りしているのだ。
今やコロナウイルスによって収入に影響を受けていない人は少数派といってもいい状態になってきてるのではないかと推測される。そのため、3月頃から本格的な経済対策を行政に求める声があがった。
自粛と補償はセットでなされるべきと言う声だ。しかし自粛は発令されても、具体的な補償の話はほとんど出てこなかった。