北朝鮮の金日成総合大学に通っていた筆者は、どのような授業を行っていたのか?(写真は同校の校庭/筆者撮影)
2019年7月4日、北朝鮮の金日成総合大学に通うオーストラリア人留学生アレック・シグリー氏が国外追放された。
朝鮮中央通信はシグリー氏が「反朝鮮謀略宣伝行為」を働いたとして6月25日にスパイ容疑で拘束、人道措置として釈放したと発表。北朝鮮の数少ない外国人留学生として、日々新たな情報発信をしていた彼を襲った急転直下の事態に、北朝鮮ウォッチャーの中では驚きが走った。
当連載では、シグリー氏が北朝鮮との出会いの経緯から、逮捕・追放という形で幕を下ろした約1年間の留学生生活を回顧する。その数奇なエピソードは、北朝鮮理解の一助となるか――?
朝鮮民主主義人民共和国の法について学ぶ、「社会主義憲法」の授業においての話だ。
北朝鮮の法には、重大な罪には
処刑が適用されるとはっきりと書かれてある。先生はこの部分を教えるとき、少し落ち着きがなくなる。規定により、朝鮮の現実については外国人留学生に知られてはならないことが多い。
北朝鮮旅行に来た外国人観光客がもし、処刑について案内員に聞こうものならおそらく答えが出てこない。しかし、授業では仕方なく扱わなければならないこともある。
先生はこの問題をこっそり避けようとするが、ある留学生は例外的に好奇心に溢れていて、知識に対する渇望が強く、なぜ処刑がそのように多く必要なのか聞いた。先生は答えた。
「我々は米帝国主義と戦っていて準戦時状態にあります。なので我々の法は軍法と似ているのです。しかし心配はいりません、留学生トンム。朝鮮で長期滞在する外国人の権利と文化的差異は認められているので、深刻に処理されることはありません」(※筆者注:では私の事例は例外なのか? 残念だ)。
社会主義憲法の他の授業では、文化についての法を学ぶ。朝鮮は大部分の現代文化を恣意的に「ブルジョワ文化」と規定する。朝鮮の公式思想によるとこの「退廃的文化」は朝鮮を「浸透」し、帝国主義者がたやすく侵略できるようにする(※筆者注:この文化の波及はもちろん、人々が望んだものではなく帝国主義者の陰謀だ)。
それで朝鮮の法ではそのような「悪い」文化を外来メディア遮断と関連する法で制約する。
印象深く残ったのは先生が帝国主義者たちの悪しき「資本主義文化」を禁ずる法的必要性を説明したときだ。あるベトナム人留学生が教室の後ろに座り、退屈な先生の講義を完全に無視して漫画の韓国語版「NARUTO」を読んでいた。この光景は多くの在北留学生たちのアイロニカルな生活を美しく総括していたと思う。
(短期実習生以外の)留学生はほとんど北朝鮮で学位を取得する。それぞれ、学士学位の卒業証書を受ける本科生、修士を取得する修士生、博士号を受ける博士生がいる。現地学生は無償教育だが、留学生は朝鮮教育省にある教育委員会に年に一度学費を支払う。本科生は3000(米)ドル、修士生は3500ドル、博士生は4000ドルである。
卒業式は通常、真冬である1月中旬だ。インターネットでは中国人留学生たちの卒業写真を見ることができる。金日成総合大学本館で女子学生たちが朝鮮服(チョゴリ)を、男子学生がスーツを着て、もらったばかりの立派な学位記を持って教員と大学の対外事業部職員たちと記念撮影し、自分たちどうしでも写真を撮る。そして教員たちとも食事を共にする。これは唯一の機会であるように思える。
学位記自体はとても見栄えが良く作られていると思う。私ももともと、留学生の中では最優等生(私を追放した国家安全保衛省の職員もそのように言った)であり、文学大学の現代朝鮮小説文学の修士号を2020年1月あたりに取得するはずだったのだが、逮捕によって霧散した。
私はその代わりに国家安全保衛省の尋問学院を卒業したのだ。卒業証書のようなものは残念ながら、なかった。最近、一緒に卒業するはずだった留学生の友人たちの卒業写真をFacebookで見た時は悲しかった。私は、まだ在学中の友人に私の成績表を対外事業部からもらってきてくれと頼んだが、彼らはそれをやりたがらなかった。人生とはそんなものだ。残念だ。
本科生は授業のコースが修士生、博士生とは違う。本科生は学年別に同じ授業、同じ専攻を取る。専攻は朝鮮語だ。
彼らの授業は大部分が朝鮮語と関連しており、金日成総合大学文学大学(2019年に朝鮮語文学部に改名)の言語学専門家から教育を受ける。朝鮮語講読、朝鮮語文法、作文、朝鮮語方言学、文体講読、語彙論、ヒアリングをはじめとるする朝鮮語授業を行い、文学基本、朝鮮民俗学、文学史、朝鮮地理学、主体哲学、論理学、言語学概論、数学(やっと終わった)など、多岐にわたる。
博士院生(博士、修士過程)は先行を選ぶことができる。現代朝鮮小説文学の修士コースだった私は唯一の中国人以外の博士院生だった。ほかには法学が2人、言語学が2、3人、主体哲学2人、博士過程には公共保健(この学生は金日成総合大学医学大学に別途通っている)と主体哲学、デジタル設計、経済学を専攻する朝鮮族の学生がそれぞれ一人いた。