留学生が授業を受ける、金日成総合大学3号舎の内部
2019年7月4日、北朝鮮の金日成総合大学に通うオーストラリア人留学生アレック・シグリー氏が国外追放された。
朝鮮中央通信はシグリー氏が「反朝鮮謀略宣伝行為」を働いたとして6月25日にスパイ容疑で拘束、人道措置として釈放したと発表。北朝鮮の数少ない外国人留学生として、日々新たな情報発信をしていた彼を襲った急転直下の事態に、北朝鮮ウォッチャーの中では驚きが走った。
当連載では、シグリー氏が北朝鮮との出会いの経緯から、逮捕・追放という形で幕を下ろした約1年間の留学生生活を回顧する。その数奇なエピソードは、北朝鮮理解の一助となるか――?
“想像力豊かな”国家安全保衛省は、私をスパイに仕立て上げたが、私が北朝鮮に留学した本来の意図はもちろん学業のためだった。私は長い間、北朝鮮の小説文学に関心を持っていたし、金日成総合大学でそれを専攻することを夢のように思いとても期待していた。
留学生が現地人の学生たちとともに授業を受けるのは許されないが(これはもちろん、留学生たちの“ブルジョワ思想”の浸透を遮断するためである)、受ける教育は現地の学生と同じく革命的である。
金日成総合大学の留学生の教室は、明らかに違う文化が交流する場所でもある。留学生の講座を行う金日成総合大学3号舎7階の留学生たち自体は、さまざまな国から来ており、外国人と朝鮮人の二分法、つまり金日成総合大学の教員と留学生の違いが浮き彫りになる現場でもあった。
我々の教員はほとんどが情が深く、愛すべき人々であった。我々留学生の朝鮮に対する唯一、幸せな記憶は彼らと話をし、冗談を言い合い授業の内容だけでなく違いに対し教育する過程で形作られた。
私は今回の記事で、留学生たちの授業と教員ついて綴ろうと思う。
朝鮮語文法は本科の必須科目である。ここでは連結詞、終結詞、格助詞など文法的構造要素について習う。
先生は黒板に文章を一つ書く。学生たちはその文章の文法を解析し、各部分を指し示さなければならない。何が名詞で、動詞で形容詞か、どこが格助詞であり、どんな助詞を使うべきかというようにだ。先生はチョークをざらついた表面に滑らせ、黒板の片側に立つ。そうして書かれた文章は以下のとおりである。
「社会主義を守れば勝利である、捨てれば死である」
「社会主義を守らん」という朝鮮の歌の歌詞である。朝鮮語文法や講読の授業の例文やテストはほとんどがこのように“革命的”である。
社会主義に関心のない留学生は、あくびをしながら問題を解く。
また、留学生に対し漢文の授業は現在、行なっていないが我々は2014年に出版された留学生用教科書を別途購入した。
漢文といえば「有朋自遠方來,不亦樂乎」といった孔子、孟子、壮子などの言葉を難解な中国語古文で読むことと思われる。しかしこの教科書に載っている漢文は古代の賢人の教えではなく、朝鮮労働党機関紙である労働新聞の政論のテストのような内容であった。
金日成総合大学で使われていた、漢文の教科書
以下、原文を載せる。
第二十九課. 썩어빠진 美國式生活樣式
偉大한 領導者 金正日同志께서는 美國式生活樣式의 本質的特徵을 이루는것은 極度의 個人主義와 利己主義에 基礎한 黃金萬能主義, 詐欺와 挾雜, 悖論과 悖德, 人間憎惡心, 野獸性과 野蠻性이라고 밝혀주시였다.
(第二十九課 腐り切った米国式生活様式
偉大なる領導者金正日同志は米国式生活様式の本質的特徴とは極度の個人主義と利己主義に基づいた黄金万能主義、詐欺と挾雜、悖論と悖德、人間憎悪心、野獣性と野蛮性であると教えられた)
第29課はそのようにして始まった。