「朝鮮は退屈だ」を「朝鮮は素晴らしい」に書き換えられる
朝鮮語作文も、本科必須科目である。留学生はこの授業において、先生が提示した幅広いテーマで作文を行わなければならない。
その中で、「君たちの国の小説について書け」という問題があった。私の友人の韓国系カナダ人学生は妖精、ドラゴン、魔法などがあるハイファンタジーと『ダンジョンズ&ドラゴンズ』といったものにハマっていた(私も同じで、この共通の趣味があってこそ彼と親しくなった)。
彼は先生に、カナダの小説は退屈だと言ったが先生は「ではトルストイの『戦争と平和』のような古典文学について書け」といった。カナダ系韓国人の彼はここに、彼の趣味であるトールキンの指輪物語について書いた。彼は宿題の中で、「指輪物語」のストーリーをぎゅっと縮めて「中つ国」「妖精」「ドワーフ」といった単語を細かく翻訳して説明した。
宿題を見て先生は「指輪物語」など聞いたことがない、「ホビット」「ゴーレム」などという概念は話にならないと言った。結局韓国系カナダ人の彼は低い点数しかもらえなかった。
また、他の宿題では「朝鮮での留学生活について書け」と言われた。ある中国人留学生はバカ正直に「朝鮮の生活は退屈だ」「平壌には遊ぶ場所がない」「留学生の宿舎ではお湯が出ない」などと書いた。
宿題の返却時、先生は低い点数を与えつつ、内容を修正していた。
「朝鮮の生活は退屈だ」を「朝鮮の生活は素晴らしい」、「平壌には遊ぶ場所がない」を「革命の首都平壌は元帥様の懐の元で幸せだ」、「留学生の宿舎ではお湯が出ない」を「留学生宿舎は万端の設備を備えている」などに書き換えられていたのだった。
また私が聞いた話では、ある留学生が金正恩について書いた。特に批判的な内容でもなく、「私は金正恩元帥様を好きだが、仮説的にいうならば権力に制限がなく、万が一悪事を働いても誰も止めることができず、危険な状態になりうる」といった文章であった。金正恩は独裁者ではないが、北朝鮮の制度のせいで独裁者になりうるというものだった。
先生は宿題を見て、他人に見せるな、燃やせと勧めた。領導者が悪となる可能性を考えることは許容されず想像もできないという、北朝鮮社会を表すエピソードである。
スウェーデンの留学生も一度、「国際親善」というテーマについて書く宿題で、スウェーデンが北朝鮮に行っている開発援助を提起した。この援助資金は莫大で、北朝鮮経済の0.1%程度に相当する。返されてきた宿題ではこの事実が削除されており「スウェーデンの進歩的な人間も元帥様を天のごとく仰いでいる」といった内容に書き換えられていた。
これが主体朝鮮である。他者の援助はいらず、仕方なく受ける際は感謝する必要もないのだ。
<文・写真/アレック・シグリー>