先進国の中でも、深刻な格差問題を抱える韓国だが、今のところ打開策は見えない。
「格差を含めた社会の葛藤を鎮静化させる『包容型福祉国家』というのが、今の韓国が目指す理想像。具体的には、セーフティネットの拡充と機会の平等化、差別のない社会の実現です。そんな文政権が真っ先に掲げたスローガンが『所得主導成長』です」
具体的な実現例としては、日本でも話題になった最低賃金の引き上げだったが、結果としては雇用側の負担が増加し、逆に雇用が減る現象が起きてしまった。さらに税制では昨年、高所得者や不動産所有者からはより多く税金を徴収する法改正も行われたが、一部の富裕層から大きな反発が起きた。
「方向性は悪くなかったが、自営業者が労働人口の25%を占める韓国では政府の一律的な政策はさほど効果的ではなかった。さらに国会が富裕層派の保守派と公正な富の分配を求める進歩派で拮抗しているため、さまざまな規制緩和に関する法案は通らず、給料を上げただけで終わってしまったような面もある。それ以降、文政権はもう所得主導という言葉を口にしなくなりました」
徐台教氏
頼みの綱は、来る4月15日に実施される第21代国会議員総選挙。20~30代の若い政治家がデビューし、格差や世代交代の問題が前面に出るチャンスになりうるが、現在の局面に鑑みれば、新型コロナウイルスの問題に覆われてしまう可能性が大だという。
「せっかくの好機だったのに、あまりにも惜しい。せめて総選挙が延期されればよいのですが」
【ジャーナリスト・徐 台教氏】
群馬県生まれ、’99年より韓国に在住。NGO代表などを経て、日本語による韓国政治ニュースサイト「コリアン・ポリティクス」編集長
取材・文/和場まさみ 安宿緑