韓国貧困層の象徴、リアル「半地下」住人の夢。「普通に結婚し平凡に暮らしたい」

[密着ルポ]本当にヤバい韓国の真実

近くには映画『パラサイト』に出てきた「豚米スーパー」が(写真左側)。アカデミー賞受賞直後は、観光客がひっきりなしに訪れた

貧困層の象徴「半地下」住人の夢「普通に結婚し平凡に暮らしたい」

 映画『パラサイト』のロケ地になったソウル・忠正路駅近くにある阿峴洞1区。この近くには、作品に出てきた「豚米スーパー」もある。一般的に年収が100万円台の低所得者層が住むこの一帯では、半地下住宅が密集している。映画で一躍世界に知れた半地下住宅だが、一方では「貧困の観光化」だとして批判を受けている。ソウル市が2年前に一帯の再開発を決めたが、映画のヒットを受け、観光地として保存する方針を表明。住民からは猛反発の声が上がっているという。時代の変遷のさなかにある半地下住宅の住人は何を思うのか。  記者がソン・キフンさん(仮名・28歳)宅を訪ねると、記者の個人的な印象としては「悪くない」。失礼ながら、映画のように悪臭が立ち込める修羅場を想像していたが、20坪ほどの内部は清潔にリノベーションされ間取りは3LDK。インターネットも開通しており、太陽光が差さないことを除いては、不便さは見受けられない。家賃約8万円のところ、5万円で住める僥倖にも恵まれたとか。

初めて持てた、自分の部屋。ここで地上への抜け道を探す

 ソンさんはソウル出身ではあるが一家で地方を転々とし、長屋などに暮らした。財布職人の父と専業主婦の母、薬局に勤める姉と4人で昨年、近くの半地下から、越してきたという。 「ここはこの辺一帯でも良いほうで、以前住んでいた家はもっと狭くて薄暗く、映画の映像に近い。それで家庭の雰囲気も悪くなりました。映画のように、消毒の煙が地上の高さにある窓から入ってくる、雨漏りで天井の壁紙が剝がれ落ちるのも日常茶飯事でした」
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映画では下水管が上にあるため、便座が高い位置にあったがここでは普通。この点もほかの半地下と比べてワンランク上を示す

 ソンさんが半地下で暮らしていることについて、友人たちとも話題にならないという。格差についても「実感がない」。そんな彼の語り口からは悲壮感を感じないが、「この年で、ここにきて初めて自分の部屋と居間を持つことができた」という言葉に、長年の半地下暮らしのリアリティがにじみ出る。また、内部は小ぎれいでも外観や周辺の景観はやはり貧しい。  現在は無職で会計士を目指し勉強中だというソンさん。韓国は「世襲階層社会」と呼ばれ、階層が親の経済力によって固定されてしまうというのが定説だ。だが有資格者になれば、階層移動に光が差す。韓国で会計士に合格するまでの平均年数は3年6か月だが、それまで半地下で耐えることになる。 「合格したら起業したい。家族にも援助をし、普通に結婚して平凡に暮らしたい」  そんなソンさんの願いは、今の韓国社会においては壮大な夢なのだろうか。
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