意外な社会風刺や教訓も?オトナこそがハッとさせられる4つの海外アニメ映画
6:『アーリーマン ダグと仲間のキックオフ!』(2018)
上映時間:1時間28分
『ウォレスとグルミット』や『ひつじのショーン』シリーズで知られるアードマン・アニメーションズが送り出した、サッカーをモチーフにしたクレイアニメだ。原始人が持ち前のセンスで青銅器時代の強豪チームと戦うというプロットがすでに面白く、サッカーの試合は荒唐無稽でもありながら大迫力、サスペンスやコメディシーンも楽しく、子供から大人までケラケラと笑いながら観られることだろう。
しかも、サッカーには女性が参加できないという男女差別や、反則・不正行為のバカバカしさを皮肉ったり、“サッカー自体より収益の方が大事”と揶揄されてしまった国際サッカー連盟(FIFA)の汚職スキャンダルを反映しているところもあるなど、オトナこそが唸る社会風刺もあったりするのだ。それらにサッカーの腕前、チームワーク、そして正しいスポーツ精神で立ち向かってくる様は爽快感に満ち満ちている。
7:『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』(2012)
上映時間:1時間19分
フランス製のアニメで、見た目はほんわかハートフルに思えるが……実際は、かわいいネズミの少女と、太ったくまの中年男性が、共に泥棒をして犯罪者となり警察官から逃げ惑うという、『レオン』のようなハードボイルドな物語(!)である。それでも、教育的に悪いという内容ということもない。彼女たちが泥棒をすることになったのは、そもそもの社会のルールが間違っているせいでもあるからだ。
つまるところ、描いているのは相手への不理解や不信感のため、安易に敵とみなしてし、集団で迫害や攻撃をしてしまうことの愚かさだ。これは、社会の全体主義的な価値観により起こされた、様々な悪しき歴史のあるフランスという国家の風刺でもあるのだろう。『かぐや姫の物語』などの高畑勲監督作品を思わせる、絵本タッチの絵が生き生きとなめらかに動く様も必見だ。
8:『フェリシーと夢のトウシューズ』(2016)
上映時間:1時間30分
孤児院で育った家族のいない女の子が、パリでバレリーナになることを目指すという、王道のサクセスストーリーが紡がれたフランス・カナダ合作のアニメだ。誠実なのは、“夢に敗れた者”の姿を見せていること。たとえば、バレエ学校の指導者は“1日に1人脱落させる”という厳しいルールを生徒に課しており、主人公がお世話になる掃除係の女性も、ある理由によりかつての夢を諦めたことがある。“夢は絶対に叶う”という根拠のないキレイゴトだけでは終わらせず、“夢が叶わなかった後”の社会の厳しさも描いているのだ。
一見すると女の子向けの作品にも思えるが、主人公の親友となるのが発明が得意なオタクっぽい少年であり、彼とコンビを組んだアクションも展開するため、男の子も大いに楽しく観られるだろう。劇中のバレエのダイナミックな動きも優雅で美しく、苛烈な“ダンスバトル”も迫力満点だ。19世紀のパリを再現した街並みも作り込まれており、建設途中のエッフェル塔や自由の女神像などもあるので、ぜひじっくりと観てみてほしい。
9:『アングリーバード』(2016)
上映時間:1時間37分
同名のスマートフォン向けのゲームアプリの映画化作品であり、「怒り鳥」というタイトルが付いているくらいだから、主人公はさぞかしとんでもない怒りん坊なのだろうと思いきや……実際はその逆、「こんなことをされてよく我慢できるな!」と思うしかない、周りの鳥たちが心無い、ひどいことを主人公にしまくる内容なのだ。例えば、仕事に対して理不尽なことを言うクレーマー、悪意がなくても誰かを傷つけてしまう偏見、強制的に参加させられたグループセラピーのウザさなど……明らかに、ストレスを溜めがちな現代社会への皮肉もたくさん盛り込まれている。
さらに、物語の中盤からは、外部から“みどり色のブタたち”が鳥たちのコミュニティに来襲し、彼らの勝手な価値観のおかげで、さらに主人公は周りから浮いてしまうことになる。それでも彼は怒りを押し殺し、自分を蔑んでいたはずの仲間たちを救うため、問題解決の糸口を探していくという、尊い物語へと展開していく。終盤のパチンコで鳥が飛んで行き建物を破壊しまくる、原作ゲームを再現したスペクタクルは迫力満点。しかも子供には絶対にわからないであろう、ある有名映画のパロディも盛り込まれていたりする。日頃のイライラが溜まっているという方、映画を観てスカッとしたいという方も必見だ。
過酷な描写があるからこそ子供に観てほしい、2つの日本製アニメ映画
10:『河童のクゥと夏休み』(2007)
上映時間:2時間18分
日本のアニメ映画からは、こちらをオススメしたい。オトナたちが感動しているとかつて話題になっていた『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001)(こちらもAmazonプライムで見放題)の原恵一監督が手がけた作品であり、少年と河童の友情を描きながらも、異なる存在を受け入れる家族、少女への淡い恋心、軽薄なマスコミとそれに付和雷同してしまう市井の人々など、様々な要素が密接に絡み合いながら展開していく物語となっている。
爽やかさを感じさせるタイトルだが、じつは“残酷さ”からも逃げない作品だ。序盤と中盤にははっきりと流血シーンもあるため、それを小さい子供に見せたくないという方もいらっしゃるだろう。しかし、それは本作の“人間の悪意から起こる不幸”を描くために間違いなく必要なものであった。上映時間も長めで、辛く苦しい展開も多いが、それがあってこそ導き出される結末には、忘れがたい感動があることだろう。
11:『デジモンアドベンチャー』(1999)
上映時間:20分
後にも多数の派生作品や、続編のテレビアニメシリーズも放送された、『デジモンアドベンチャー』の劇場版の第1作だ。内容は、幼い兄弟の元に、パソコンから飛び出てきたタマゴが現れ、そこから生まれた生命体が大騒動を起こしていく……というシンプルなもの。上映時間も20分と短いので、長い映画だとグズってしてまうというお子様にも、とりあえず観てもらうのもいいだろう。
監督は、あの『サマーウォーズ』(2009)や『未来のミライ』(2018)などの細田守。躍動感あるアニメ表現と、終盤の怪獣映画と化していくスペクタクル、子供が苦しむ表情をしっかり描くなど、国民的なアニメ映画監督の作家性を、強烈なまでに感じられる作品でもある。バレエ曲の「ボレロ」を、これほどまでに有効に使ったアニメは後にも先にもないだろう。なお、Amazonプライムではその細田守監督作品『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000)も見放題となっている。さらに、現在は劇場版アニメ『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』も公開中であり、この『デジモンアドベンチャー』(1999)を先に見ておくと、もっと感動できるということもお伝えしておく。