2020年3月現在、新型コロナウイルスのために日本中が大混乱に陥っている。映画業界もその煽りを強く受けており、『ドラえもん のび太の新恐竜』『2分の1の魔法』『ドクター・ドリトル』『ソニック・ザ・ムービー』と、3月公開予定であった大作ファミリー向け映画が軒並み公開延期となり、各劇場ではレイトショー上映の中止、座席間隔を空けてのチケット販売、臨時休業などの対応を余儀なくされている。
映画館で映画を観るということは、それだけで特別な体験になり得る。個人的には、今は邦画の新たな大傑作『初恋』、観た人を明るい地獄に連れ込み一生もののトラウマを与える『ミッドサマー』など素晴らしい映画がたくさん公開されているので、十分に対策をした上で観に行って欲しいという気持ちも強いのだが……ファミリー層に限らず、誰もが劇場に足を運びにくくなっているというのは、致し方がないだろう。
ここでは、家族で映画館に行けない、行くのをためらってしまうという方に向けて動画配信サービスのAmazonプライムビデオで現在見放題となっているファミリー向け映画から、厳選した計15作品を紹介しよう。いずれも、小学校低学年ごろから(あるいは未就学児でも)楽しめる内容であり、かつオトナこそが“学べる”ところもある、子供騙しになっていない、知る人ぞ知る傑作を選出している。
なお、以下の映画は、こちらの項目に分けて紹介している。
・パパやママやきょうだいと仲良くなれる?家族の関係性を見つめなおせる5つの海外アニメ映画
・意外な社会風刺や教訓も?オトナこそがハッとさせられる4つの海外アニメ映画
・過酷な描写があるからこそ子供に観てほしい、2つの日本製アニメ映画
・あの頃に観ていた娯楽作のワクワクを知ってほしい!4つの実写映画
パパやママやきょうだいと仲良くなれる?家族の関係性を見つめなおせる5つの海外アニメ映画
1:『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
上映時間:1時間33分
アイルランド製のアニメであり、『となりのトトロ』のねこバスの疾走シーンや、『千と千尋の神隠し』の湯婆婆に影響されたキャラクターなど、ジブリ作品を思わせるシーンが多く存在する作品だ。アイルランドにおける歴史や伝承をなめらかなアニメで表現した、幻想的かつ神秘的な世界観および音楽には、オトナこそがうっとりできるだろう。
物語そのものも、いじわるなお兄ちゃんと、しゃべることができない妹が、一緒に冒険をしながら次第に打ち解けていくという、子供にもわかりやすく、ワクワクできるものだ。子供が観ると、ちょっとだけでもきょうだいに優しくなれるのかもしれない。そして、“悲しみを含めた感情の大切さ”を訴える、ピクサー作品『インサイド・ヘッド』に通じているメッセージもとても教育的で、胸にズシンと響くという方も多いはずだ。なお、同スタジオによるアニメ映画『ブレンダンとケルズの秘密』もAmazonプライムで見放題となっている
2:『リトルプリンス 星の王子さまと私』(2015)
上映時間:1時間46分
誰もが知る、サン=テグジュペリによる世界的ベストセラー『星の王子さま』のアニメ映画化作品なのだが、その物語は一筋縄ではいかない、はっきりと“行き過ぎた管理社会や詰め込み教育”を痛烈に風刺した内容にもなっている。人間の社会は画一的で無機質なものとして描かれ、ラジオからは「数字がもっとも大切だ!」という主張も聞こえている。しかも、主人公の女の子は幼い頃から英才教育を施され、お受験で失敗しないように“模範的な回答”をお母さんから教え込まれただけでなく、“完璧な人生プラン”を勝手に掲げられ、友だちも作れないままでいたりするのだ。
そして、女の子はやがて「小さな王子さま」の話をしてくれる隣のおじいさんと友達となる。そこから、大人の社会では特に忘れがちな“本当に大切なこと”を教えてくれる物語へと転換していくのだ。子供にとっては原作に沿った王子さまの物語と、女の子自身の冒険にワクワクできるのだが、オトナにとっては子供への教育方針を考えるきっかけになる、というのもいいバランスだ。終盤のネタバレ厳禁の衝撃の展開は強烈すぎて、居心地の悪さを覚える方もいるかもしれないが、それも含めて忘れがたい作品だ。
3:『カンフーパンダ』(2008)
上映時間:1時間31分
そのタイトル通り、パンダがカンフーをする3DCGアニメだ。突如“選ばれし者”と認められてしまったが、全く実力も自信もその評価に追いついていない主人公の戸惑いと苦悩、そして成長が丁寧に描かれている。ダイナミックかつスピーディなカンフーアクションと、クセが強いが愛すべきキャラクターに、誰もが魅了されることだろう。
特徴的なのは、敵キャラクターの設定だ。師匠と崇めていた人物への不信感が悪に堕ちるきっかけになっているという、『スター・ウォーズ』シリーズのダース・ベイダーを思わせるところがあるのだ。そして、主人公のパンダが“拾われた子供”であること、本当の父親でなくても愛情を持って育てられたという事実が、その悪役との対比になっているというのも見事だ。本当に大切な親子の関係とは何か、ということを考えさせられるかもしれない。なお、アクションがさらに進化した続編の『カンフー・パンダ2』(2011)、アニメシリーズの『カンフー・パンダ 運命の拳』もAmazonプライムで見放題となっている。
4:『コララインとボタンの魔女』(2009)
上映時間:1時間40分
こちらは、いわゆる“ストップモーションアニメ”で、「人形や小物をカメラで撮って、ちょっとだけ動かして、また撮影して、また動かして……」という、気が遠くなる作業を繰り返すことで作られた作品だ。その人形の質感がCGとは違う味わいがあり、それだけで楽しく観られるのだが……この作品の本質は、ちょっぴり(ひょっとすると子供にとってはかなり)怖い、ということにある。
引越しした先で退屈していた主人公の女の子が、別の世界に通じる扉を見つけて入ると、そこには“もう1人の”お母さんとお父さんがいた。2人はそれぞれ彼女の願いを叶えてくれるのだが、その目玉は無機質なボタンになってしまっていて、彼女にとんでもないことも要求してくる。子供にとって、絶対の安心感を与えてくれる両親が、別の存在になってしまっているということは、何よりの恐怖だろう。そこから起こる奇妙な冒険は、ゾッとすると同時に蠱惑的でもある。本作を見れば、親に不満を抱えていた子供は、親への理解や共感を得るきっかけにもなる。そのために、本作の“ちょっと怖い”描写は必要なのだ。
5:『ぼくの名前はズッキーニ』(2016)
上映時間:1時間5分
こちらも『コララインとボタンの魔女』と同じく、大変な手間を経て作られたストップモーションアニメだ。ビジュアルは可愛らしく見えるが、主な舞台は孤児院であり、そこで暮らしている子供たちは、親から虐待を受けるなどの残酷な体験を経ている。目の周りに“クマ”があるキャラクター造形もあって、その表情にはどこか“暗い影”も感じさせるだろう。
特に大きな事件が起こるわけでもない、ファンタジーも魔法もない物語だが、過酷な境遇であっても懸命に生きる子どもたちの交流と、彼らの健気さやかわいらしさは、きっと同年代の子供こそが好きになれるだろう。大人が観れば、そうした心に傷を抱えたと子供との接し方だけでなく、虐待を受けた子供が親を決して恨んでいるとは限らない、不幸であるとも決め付けられないと、そして「子どもがどのような考え方をしているか」についても学べるはずだ。