残業月100時間が年0.02時間に減少。ブラック企業だった介護・看護施設運営企業が変わったワケ
2月上旬、6回目となる「GOOD ACTION アワード」受賞式が都内で行われた。「GOOD ACTION」とは、働き方の多様化が求められる現代において、一人ひとりがイキイキと働くための職場の取り組みに光を当てるプロジェクトのこと。多数の応募企業の中から審査を経て、独自の取り組みを進める7社が参加した。
大賞に輝いたのは、介護施設運営のエーデル土山(滋賀県)。4つの部門賞の一つで、働き手のバリエーションの多様化に貢献したアクションに対する「ワークスタイルバリエーション賞」には、訪問看護の「ソフィアメディ株式会社」(東京都)が選ばれた。両社に共通するのが、一般的には「きつい」「ブラック」の印象が強い介護・看護業界であることだ。
労働集約的な業種でありながら2社はどのような施策を行い、「GOOD ACTION」に繋げたのか。エーデル土山・施設長の廣岡隆之氏、ソフィアメディ株式会社・人材開発グループ グループマネジャーの宗梨恵子氏に話を聞いてみた。
エーデル土山では、施設長の廣岡氏が一貫して「スタッフファーストの施策」を推進してきた。
10年ほど前には労基署から是正勧告を受けたほど労働環境が劣悪で、離職率は40%台。廣岡氏は働き方改革を「とにかく、やるしかなかった」と振り返る。
当時は残業が当たり前で、月に100時間を超えるケースもあった。また利用者を人力で抱えるため、腰に多大な負担がかかっていた。
離職の要因は「腰痛」「長時間労働」「メンタル不調」の3つで、廣岡さんはこれらをなくす「トリプルゼロ」を掲げて行動を開始。廣岡氏を含む4人がスタッフを辞めさせない環境整備に向けて動き出した。
「腰痛については電動リフトという機械を導入し、スタッフが利用者を抱えない環境を作りました。私も経験がありますが、男性でも腰を傷めます。
また余剰人員を配置して、一人当たりの負担を和らげ残業を減らしました。スタッフは時間にも体力にもゆとりができ、プライベートを楽しめるようになりました」
福利厚生として、マッサージチェアや酸素カプセルなどを施設内に設置してスタッフがリフレッシュできる場も用意している。
しかしすんなりと改革が進んだわけではない。スタッフの中には介護の機械化に反対する者もいた。
「介護職に就く人はもともと『困った人の役に立ちたい』という奉仕精神が強い。電動リフト導入を話した時 『人を機械で吊り上げるなんて酷い』と抵抗を感じるスタッフもいました。私もその気持ちはわかるので、彼らの心境に丁寧に向き合いました。一人ひとりと話をして、働き方を変えていくことのメリットを伝えていったのです」
エーデル土山では毎月、役職者がスタッフと一対一で話す「トーキング」(個人面談)を行なっている。仕事のことだけでなく、プライベートのことなど何でも話せる。気軽に気持ちを打ち明けられる相手がいることでスタッフは心理的な負担が減る。
トリプルゼロ以外には、業務を棚卸ししてやめられるものを手放した。たとえば、朝会や全員参加の会議、研修を廃止。コストカットで生まれた財源は、余剰人員の配置に充てる。これらの施策を経て年間総残業時間は0.02時間と、業界では驚異的な数字に繋がった。結果として、離職率は7~8%に低下した。
「スタッフの満足度が向上すると、利用者に優しく接することができるんです。より多くの利用者を受け入れる余裕も生まれ、収入も上がってきました。利益をスタッフの働きやすい環境に還元できる流れを作れました」
現在は看護師、介護福祉士といった人材が募集枠の空きを待っている。廣岡氏の努力が「エーデル土山で働きたい!」という入職希望者待ちの状態を実現した。
離職率4割の施設がスタッフ定着のため掲げた「3つのゼロ」
スタッフが気持ちよく働くことが、介護の質を上げる
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