「モノ」が残らない産業の記録。電ファミニコゲーマーの『日本モバイルゲーム産業史』に向ける期待

電ファミニコゲーマーにて『DeNA協賛企画 日本モバイルゲーム産業史』が公開

 「電ファミニコゲーマー」というサイトがある。2016年2月に創刊した当時は、ドワンゴの傘下だった(参照:苦境のドワンゴから分離したWebメディア、「電ファミニコゲーマー」の良質な「濃さ」|HBOL)。同サイトは昨年6月30日に、株式会社マレに事業移管した。立ち上げから関わっている社長兼編集長は、TAITAIの名前でも知られる平 信一氏だ。  同サイトの奇妙な名前は、複数のメディアが元になっている。ゲームメディアの「電」撃「ファミ」通。ニコニコ動画の niconico の「ニコ」、協力メディアの4Gamer.netの「ゲーマー」。合わせて「電ファミニコゲーマー」。  いわゆるゲーム系のWebメディアなのだが、他のメディアとは毛色が違う。インタビュー系が強く、広告効果を無視した膨大なテキストを投入する。良質なメディアである以上に、その熱量に圧倒される。  このサイトが独立した直後に、一つの記事が投稿された。『電ファミ初の企業協賛としてDeNAが名乗り。協賛企画として特集「日本モバイルゲーム産業史」を展開!』というものだ。  「日本モバイルゲーム産業史」この登場を、私は心待ちにしていた。自分自身、iモード向けのiアプリを数年作って暮らしていた経験がある。そして、それらがガラケーの終了とともに遊べなくなることも承知している。消えゆく文化をどこかで留めて欲しい。そうした思いが、注目した理由である。  その『日本モバイルゲーム産業史』が2020年2月25日に公開された。年表と脚注形式で1999年から2018年までの情報が掲載されている。このページは、公開して終了ではない。公開時の記事によると、今後、開発者インタビューなども順次掲載予定だそうだ。そして、他のコンテンツと大きく違うのは、年表への解説文・寄稿記事を募集していることだ。  当時の開発者や運営会社の声も拾い上げて、情報を補完していこうという試みだろう。1999年は現在の21年前である。20年近くの間に、ゲームに関わる人の世代交代が何度かおこなわれている。当時の情報を集めるには、こうしたやり方が必要なのだろう。

1999年から始まるモバイルゲーム史の流れ

 『日本モバイルゲーム産業史』の内容は、それなりに膨大だ。目次を見るだけでも、大きな変化が続いていることが分かる。全体を把握するために、ざっとダイジェストで内容を辿っていこう。 ●1999年 iモード、EZweb、J-スカイのサービス開始  最も大きいのは、NTTドコモがiモードのサービスを開始したことだろう。それ以外にも、DeNAが創業している(株式会社ディー・エヌ・エー)。この年、同社は、インターネットオークションのサービスを開始した。ゲームと関わるのは、もう少し先になる。  また、この年の情報に出てくるドワンゴの設立は1997年8月で、DeNA創業の2年前だ(株式会社ドワンゴ)。実際のドワンゴの前身はもう少し古い(ASCII.jp)。 ●2000年 iモードの大ヒット。携帯電話の普及台数が固定電話を上回る  iモードが爆発的にヒットした。iモードを利用することで、インターネットをどこでも利用できる環境が世間に浸透した。それらの環境の登場により、モバイルによるオンラインゲームが勃興した。 ●2001年 Javaアプリと3Dゲームの登場  NTTドコモが、Java 搭載の 503i シリーズで「iアプリ」サービスを開始した。手元の端末で、アプリケーションを実行する。そのアプリケーションを自由にダウンロードして選べる。そうした世界が始まった。  iモード利用者も3000万人を突破した。この時期以降、モバイルがゲームの戦場となっていく。 ●2002年 Javaアプリと3Dゲームの登場  NTTドコモが、504i シリーズを発売した。複雑なゲームを開発可能なスペックが整う。私も過去に、504i向けにシミュレーションRPGを開発していたので、内部の仕様は分かる。低性能ながら、ゲームに必要な環境は満たされていた。本格的な、モバイルゲームアプリ時代が到来する。 ●2003年 モバイルゲームの一般化  NTTドコモが、505i シリーズを発売。それまでは120ドット幅の画面だった端末が、一気に240ドットになり、表現力が格段に進歩する。ファミリーコンピュータの表示画素数が横256ドット、縦240ドットだ。ブラウン管テレビの解像度とほぼ同等の画面で、ゲームが遊べるようになった。  私がiアプリ開発に参入したのは、この年の春だった。まだ 505i のシェアが低かったために、504i 向けのアプリからリリースを始めた。 ●2004年 3G端末、パケット定額制の登場  NTTドコモが、FOMA 900i シリーズを発売した。それ以外の話題としては、ネット系企業の登場が散見される。Facebook がサービスを開始(参照:Facebook)。「グリー」のアルファ版が公開(参照:グリー株式会社)。SNSの mixi がサービスを開始(参照:株式会社ミクシィ)。SNS時代の始まりという、時代の節目を感じる。 ●2006年 モバゲータウンとグリーが急成長  1年とんで2006年。DeNAが、モバゲータウン(現「Mobage(モバゲー)」)を開始。その後、快進撃をおこなう。 ●2007年 ソーシャルゲームの夜明け、そして市場拡大へ  この頃から、モバイルゲームではなく、ソーシャルゲームの潮流が始まる。そして、様々な課金方式やビジネス方式の話が年表中に多くなる。この年で大きなところは「個別課金方式の登場」だろう。現在ではよく知られた、アプリ内での課金が伸びる。  またこの年に、初代iPhoneが発売になる。
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スマートフォンの登場で起きた大きな変化
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