復刊後ベストセラーに。20年前の書『超限戦』から見えてくる中国の戦略

超限戦に対抗する切り札を持たない欧米と困難な立場の日本

 民主主義に弱点があることはすでにわかっているが、有効な対策は出て来ていない。  エコノミストの研究所が2006年から発表している民主主義指数によれば「完全な民主主義」国家は20カ国、人口では4.5%、GDPは20%未満である。そもそも民主主義は少数派なのだ。「完全な民主主義」でない国の多くは、これから人口と経済の発展が予想されるアジア、アフリカ、ラテンアメリカにある。そしてアフリカやアジアの国々は一帯一路に参加している。時間が経てば経つほど民主主義は少数派となり、一帯一路の存在感は大きくなる。この流れに抗うことは、たとえ民主主義的価値観を捨てたとしても難しい。  中国の展開する超限戦に対処するために欠けているのは民主主義的価値観に変わる新しいモデルである。現在の民主主義に変わるモデルを生み出し、そのモデルにのっとった新しい戦争の形を考えなければならない。  新しい戦争の形とは超限戦風に言うなら、あらゆる組み合わせの戦いである。国家対企業の戦争も起こっている。アフリカでは「中顔戦争」(フェイスブックと中国の戦争)が始まっている。アジア、アフリカ地域における中国の敵のひとつは間違いなくフェイスブックだ。海底ケーブル、SNSサービス、インターネットサービス、仮想通貨などさまざまな面で見えない衝突が起きている。民主主義を標榜する諸国が超限戦に対応できずにいる中で、フェイスブックなどの民間企業はすでに超限戦の世界へと進んでいるのかもしれない。 <文/一田和樹>
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている
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