これまで見てきたように、今後世界の鍵を握るアフリカは中国と強く結びついている。中国とアフリカの結びつきは強力である。単純に人口だけで言っても国連の予測に基づけば2030年には中国とアフリカの人口を合わせると世界の30%を占めるまでになる。経済的な影響力もさらに高まる。中国は軍事や経済だけでなく、文化面でも深くアフリカに浸透しており、メディアも手中に収めつつあるので大きな変化がなければこのままアフリカと良好な関係を続けるだろう。アフリカ全体が「黒い中国」になりつつある。
前回、「これまで力を持っていた世界の多くの国の指導者たちが中国に警戒を強めているわけだが、人口と経済成長が著しいアジア、アフリカ、ラテンアメリカにろくな手を打ってこないで今さら慌てるのは頭が悪いとしか思えない」と書いたが、その理由はわかっている。中国はあらゆるものを武器にして戦う「超限戦」という21世紀の戦争を世界に対して仕掛けており、戦いを挑まれたアメリカやヨーロッパをはじめとする各国は完全に後手に回っていることが原因と考えられる。
「超限戦」という概念は1999年に中国のふたりの軍人が書いた『
超限戦』という本から由来する。その本に書かれた「あらゆるものが手段となり、あらゆるところに情報が伝わり、あらゆるところが戦場になりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事という全く別の世界の間に横たわっていたすべての境界が打ち破られるのだ」という文章が端的に示しているように、軍事、経済、文化などすべてを統合的に利用した戦争の形態だ。前回のアメリカ大統領選やスペインのカタルーニャ独立騒動へのロシアの介入も超限戦だ。武器を使った戦争は、もはや過去のものとなった。あらゆるものが兵器となり、あらゆる場所が戦場となり、その戦果によって国の盛衰が決まる。アフリカで起きていることは、まさに超限戦そのものなのだ。中国はアフリカ全体を武器を用いることなく、支配下に置こうとしている。超限戦に対応する仕組みを持たなければ、対抗することは不可能である。
書籍『超限戦』は日本では長らく絶版となっていたが、今年の1月10日に復刊され、たちまちベストセラーとなった。すでにさまざまな立場の方々がレビューなさっているが、いくつか抜け落ちている論点があるので次回は中国が進めている施策をその論点に基づいて整理してみたい。『超限戦』を理解するためには、あえて著者が本文で触れなかったことを読み解かなければならないので、いささかやっかいなのである。たとえば超限戦はこれまでの民主主義的価値と相反するものなので、民主主義国が超限戦に超限戦で対抗するのは難しい。超限戦を展開する上で強力無比なアドバンテージとなり、欧米諸国が中国に遅れを取っている原因でもある。
【参考資料】
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The Oxford Handbook of Nigerian Politics(2018年10月、Oxford University Press)
<文/一田和樹>