障害を持つヒロインの成長を描く。『37セカンズ』HIKARI監督に聞く<映画を通して「社会」を切り取る9>

下半身不随のヒロインの成長を描く

(C)37 Seconds filmpartners

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 生まれてくる時、息をしていなかった37秒間――そのわずかな時間で脳性まひになり、下半身不随になった23歳の女性ユマが主人公の映画『37セカンズ』。ユマの性、将来の夢、母親との葛藤、そして家族のつながりがみずみずしく描かれた同作品は、2019年3月、世界3大映画祭の一つである第69回ベルリン国際映画祭にて、同映画祭史上初の「パノラマ観客賞」と「国際アートシネマ連盟賞(CICAE賞)」をW受賞。他の数多くの海外映画祭でも高い評価を受けました。そして2月7日から日本でも新宿ピカデリー他全国の劇場にて公開されています。  監督は高校3年生でアメリカユタ州へ単身留学、大学卒業後は、女優、カメラマン、アーティストとしてのキャリアを積み、ジョージ・ルーカスら数々の映画監督を輩出した名門、南カルフォルニア大学の大学院で映画作りを学んだHIKARIさん。初の長編映画となった本作がハリウッドの目に止まり、オファーが殺到中です。  そんなHIKARIさんに同作品の製作の経緯や意図、演技初挑戦となる主人公のユマを演じた佳山明さんのことなどについてお話を聞きました。

障害者の性をテーマに

――『37セカンズ』は障害者の性が大きなテーマとなっていますが、このテーマを選んだ理由についてお聞かせください。 HIKARI:元々仲の良かった友人の男の子が、19歳の時に酔ってプールに飛び込みそのまま脊椎損傷で半身不随になりました。そのことがきっかけで下半身不随の男の子と親友の話を書いたのですが、書き終わった頃、本作にも出演している熊篠慶彦さんに出会ったんですね。彼は車いす生活をしながら障害者の性のバリアフリーについて取り組んでいるんです。 HIKARI監督 その時に障害者の性の話を聞いて、自分が女性であるのに男性が主人公の話を書くのは違うかな、とも思い始めて。そこで、熊篠さんに紹介して頂いた下半身不随などの障害を持っている女性たちやサンフランシスコにいるDr.コーエンというセックスセラピストに会って取材を始めました。 ――取材の中でどのような話が印象に残りましたか。 HIKARI:そのヒアリングの中で下半身不随の女性でも自然分娩もできる、セックスで感じることもできると聞きました。下半身不随であるということは普段は何も感じないということですが、にもかかわらずセックスで感じることができる、そして、赤ちゃんが自分の力で出て来ることができる。その女性の持つ魂の強さみたいなものが素晴らしいと思って、元の男性が主人公のストーリーを下半身不随の女の子が主人公のストーリーに書き直したんですね。 ――「障害者の性」というテーマは重いテ―マであり、ある意味挑戦だったとも思います。 HIKARI:まさにその「重い」テーマを誰かが取り上げて撮らなくてはという思いがあったんです。「なぜそこに行くの?」という声もありました。でもそれは健常者の言葉。障害者の人たちはその問題と毎日向き合っているのに「重い」と言う理由で取り上げないのはおかしいと感じました。しかも、このストーリーは障害者でなくても成り立つものなんです。 ――そうですね。恋愛や性に悩んだり、母親との関係に葛藤したりするのは健常者も同じです。脚本を書き始めたのはいつ頃でしたか? HIKARI:2016年でした。2016年の5月に初稿が上がった後、8月に開催されたサンダンス映画祭とNHKが共同で毎年主宰している脚本のワークショップに参加し、ストーリーのブラッシュアップをしました。サンダンス映画祭からは1名先生が来ますが、1日目は脚本の書き方のレクチャーを受け、2日目は脚本に対する具体的なアドバイスをもらいます。  そのワークショップで日本代表作品に選ばれたことがきっかけで映画化に向けて動き出しました。
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主演の佳山明さんとの出会い
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監督・脚本:HIKARI
出演: 佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、熊篠慶彦、萩原みのり、宇野祥平、芋生悠、渋川清彦、奥野瑛太、石橋静河、尾美としのり/板谷由夏  
2019年/日本/115分/原題:37 Seconds/PG-12/配給:エレファントハウス、ラビットハウス/ (C)37 Seconds filmpartners
挿入歌:「N.E.O.」CHAI <Sony Music Entertainment (Japan) Inc.>
2020年2月7日、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
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