伊方原発の重大インシデントで「臨界」はあり得ずとも、軽視してはいけない決定的な理由

 昨年12月26日より第15回定期点検(定検)中の四国電力伊方発電所3号炉が、1月に入り二つの重大インシデント、一つの重要なインシデント、他にも多くのインシデントに見舞われました。この前代未聞の事態に四国電力は、第15回定期点検を一時中断することにしました*。 〈*伊方原発で停電トラブル 定期検査を中断―四国電力2020/01/26時事通信〉  前回は、過去一年間に伊方発電所では多くのインシデントが生じており、その中には重要なインシデントも含まれていたことを指摘し、この一月に生じた重大・重要インシデントの多発について、近年における過去すべてのインシデントを含めて総点検した上での、体制の根本的建て直しが必要であると指摘しました。また今回生じたインシデントが浮き彫りにする伊方発電所の脆弱性を徹底検証して対策する必要性を述べました。  加えて、日本の原子力PAによる極めて深刻な負の遺産であるインシデントとアクシデントに関する「トラブル」への言い換えとそれによるインシデント分析の軽視という最悪の状況を脱却すべきと指摘しました。  今回は、前回に引き続き2020年1月に生じた重大インシデントと重要なインシデントについてそれぞれ今分かる範囲で論じます。なお、配信先では例によってすべての図版が表示されない場合もありますので、その際はHBOL本体サイトにて御覧ください。
伊方発電所 特重工事がまだ始まっていないときの姿

伊方発電所 特重工事がまだ始まっていないときの姿2015/08/27撮影 牧田
写真中央やや右にある187kV特別高圧送電線(特高)2系統4回路は、現在は撤去されて写真右外に移設されている。それによって上空の障害物を除去し、山麓斜面道路沿いに特定重大事故等対処施設(特重施設)用地を確保している。
この約5年間で、伊方発電所の姿は大きく変化している

2020年1月12伊方発電所3号炉制御棒クラスタ引抜 (重大インシデント)

 まず1月12日に原子炉上部構造物を引き上げた際、制御棒クラスタの一体が上部構造物と一緒に引き上げられていることが7時間後に判明しました。  NHKなどの報道では、” 四国電力によりますと、伊方原発3号機で12日午後、核燃料の核分裂反応を抑える役割がある「制御棒」48体のうち1体が原子炉から引き抜かれるミス(インシデント 筆者注)がありました。監視カメラで作業員が気付き、原子炉に戻しましたが、およそ7時間1体が引き抜かれた状態が続いたということです。”*とのことでした。 〈*伊方原発 核分裂反応抑える「制御棒」1体を誤って引き抜く2020/01/12 NHK〉  制御棒の誤引き抜けは、沸騰水型原子炉(BWR)では頻発しかつ、最初に発生した1978年11月東京電力福島第一原子力発電所3号炉での制御棒引き抜け・臨界事故*を隠蔽したために、2007年に北陸電力志賀1号炉での1999年に生じた制御棒引き抜け・臨界事故の隠蔽が発覚するまでに分かっているだけで20件の制御棒引き抜け、誤挿入、臨界事故が生じ隠蔽されていたという極めて重大な本邦BWRの欠陥となりました。これは、最初の隠蔽によってすべての当該インシデントが隠蔽され、情報の共有、知識化、経験化が行われず、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)を含めた本邦BWR特有の重大な欠陥となったものです**。今世紀に入って以降、本邦BWR陣営の設備利用率低迷の大きな原因となっています。 〈*BWRでは、原子炉上部に蒸気乾燥器があるために制御棒は原子炉の下から押し込まれる。このために定検時に自由落下して抜けてしまう可能性があるという弱点がある。この欠陥は全世界のBWRに本質的に存在するが、インシデントの蓄積によって世界では克服されたものの、日本では長年の隠蔽によって経験の蓄積が40年ちかく遅れている〉 〈**原子力発電所の制御棒脱落事故隠蔽問題に関する意見書2007/08/23日本弁護士連合会〉  一方で、伊方発電所を含む加圧水型原子炉(PWR)では、その構造の単純さもあり、重力落下する制御棒クラスタの引抜インシデントは今まで生じていませんでした。筆者の知る限り、本邦PWRにおける制御棒クラスタ引抜インシデントは、今回の伊方3号炉で生じたものが初めてです。例え冷態停止中であっても制御棒が意図に反して動くと言うことは、原子炉の反応度制御に関わる重大インシデントであり、決して起こしてはならないものです。  四国電力は、発見するまでに7時間かかりましたが、この重大インシデントを隠蔽することなく発生当日に報告しました*。そのこと自体は当たり前のことですが、これは正当に評価されるべきです。 〈*伊方発電所3号機 原子炉容器上部炉心構造物吊り上げ時の制御棒引き上がりについて(続報)2020/01/13四国電力〉  この重大インシデントに対し、愛媛新聞が報じるところによると*原子力規制委員会(NRA)の更田豊志委員長は、「私たちの知る限りで前例はない」と異例のトラブル(=インシデント※筆者注)だったと強調し、同日の定例会合で、規制委の山中伸介委員は「事業者の深刻度や捉え方が少し軽すぎるのではないか」と指摘したとのことです。 〈*規制委員長「前例なし」 異例のトラブルと強調2020/01/16愛媛新聞〉  NRAが指摘するように、このインシデントは原子力安全の根幹に関わる極めて重大なものです。この重大インシデントについては、徹底した調査と解明の上、全PWR電力・メーカーで共有、知識化した上で再現しないようにせねばなりません。  現在四国電力が公表している報告では何がなぜ起きたのか全く何も分かりませんので、四国電力も現時点でインシデントの全貌を把握していないと思われます。今後の調査の進展に期待し、続報を待つことになります。

今回のインシデントで臨界事故は起こりえたか

 この重大インシデントが報じられた後、SNSでは“臨界か?”という投稿が見られました。過去にBWRで生じたような5本引抜でどうなるかは分かりませんが、今回は、制御棒クラスタ1体でしたし、定検中の原子炉では、中性子を吸収する硼素が冷却水にほう酸として比較的高濃度で溶存していますので、臨界核反応が起こることはありません。従って、今回については臨界事故が生じる可能性はたいへんに低いといえます。  しかし、制御棒が人間の意図を外れた動きをすること自体が原子炉で最も恐ろしい反応度事故の最大原因となりますので、制御棒クラスタの誤作動は原子炉におけるインシデントとしては最も重大なものです。その最も重大なインシデントが本邦PWRでは初めて発生したこと自体がたいへんに驚くべき事なのです。NRAが極めて強い懸念を示したことは当然と言えます。  筆者は、この重大インシデントの報に最低1カ月、おそらく半年近く操業再開は遅れるであろうと考えていました。  実際には、差し止め仮処分審山口ルート高裁判断がでたことと、1月20日の外部電源喪失重大インシデントによりこの先1年の操業再開は絶望となりました。 「たかが制御棒クラスタ1本、たいしたことはない」と強弁するヒノマルゲンパツ酷死が見られましたが、例え制御棒全体の余裕度と、ほう酸によって臨界が生じなくても、制御棒クラスタ誤抜挿は、原子炉で最も重大なインシデントですので、絶対に軽く見ることはできません。  このインシデントの徹底究明と再発防止の知識化は必須です。
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インシデント軽視論はなぜ批判されるべきなのか
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