センター試験の果たしてきた役割とその課題<入試改革のあやまちを繰り返さないために3>

センター試験の役割を再検討する

 最優先事項を終えた後は、まず、これまでのセンター試験の役割の確認と評価が必要です。実は、これまでの大学入試改革の議論ではこの部分が欠けていました。最初から「共通テストありき」で、センター試験を十分に検証せずに「センター試験の廃止」を決めてしまうことで、センター試験の遺産を活用しなかったのです。新しい検討委員会では.まずここから議論を開始すべきではないかと思います。そして、センター試験の役割として次のようなことを認識していただければよいのですが、果たしてどうなるでしょうか。

1:重要な役割は、50万人の得点を適度に分布させること

 センター試験は、50万人もの受検者の力を判別し、一定の基準で振り分ける役目があります。きれいに得点が分布して当然のように思われているところもありますが、試験を適切な難易度で作成しなければ得点分布が偏ってしまうのです。  数学に関しては、数学が苦手な人の中で差がつくような問題と、得意な人の中で差がつくような問題が組み込まれおり、問う内容が面白いかどうかは別にして、50万人の振り分けとしてはよく機能している試験でした。今後も特殊な内容を問うのではなく、標準的な内容で50万人の成績が適度に分布する試験が望まれます。

2:国公立大の2次試験とのバランスを知ってもらいたい

 これまで、センター試験と国公立大の2次試験は絶妙なバランスのもとに実施されてきました。数学の試験を例に説明しましょう。  これまでセンター試験は、その科目の中で学習したそれぞれの分野から必ず何題かを出題してきました。例えば、現行課程では、数学Iの中には「数と式」「図形と計量(三角比など)」「二次関数」「データの分析」の4項目があり、数学Aの中には「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」(この中から2項目を選択)を学習することになっています。センター試験の「数学I・数学A」の試験では、これらの項目すべてからの出題になっています。  これに対し、国公立の2次試験では、特定の分野の特定のテーマを深く掘り下げて思考力を試す問題になっています。そのため、すべての項目に触れるのは不可能であり、例えば、年によって確率の問題が出題されなかったり、あるいは数列の問題が出題されないなどのことがあります。  また、東京大学の二次試験ではいまだに数学Iの「データの分析」からの出題はありません。それを出題するかどうかは東京大学の考え方次第で、東京大学に決定権があるものの、もしもセンター試験がなければ、高校生は「データの分析」を全く学習しないかもしれません。  このように、センター試験がすべての分野から少しずつ大きな偏りなく出題することは意味が大きいのです。ですから、今の役割では、センター試験あるいは共通テストでは強烈な個性を出すことは控え、癖のないフラットな内容が適するのです。

3:センター試験だけで入ることのできる大学をどうするか

 共通テストの数学と国語の中に記述式を導入しようしたことの大義として、共通テストだけで入学可能な大学があることがその一つでした。そのような大学があるから、共通テストにマークシートでは測れない記述式が必要なのだという論法です。これに対しては、これまで多くの方が説明してくれているように、実施しようとした共通テストの記述式はお粗末なものでしたので、実施したとしても役に立たないというのが回答です。  しかしながら、そもそもセンター試験だけで入ることのできる大学があること-自前の入試問題が作成できない大学があること-は、共通テストの記述式がよいかどうかとは別の深刻な問題です。「自前の入試問題が作成できない」ということの理由には、「追加募集であるため、試験を実施する時間がない」、「試験を実施するマンパワーがない」などがあります。このような大学は、少子化が進むこの時代に学生募集に苦労している大学が多いのが特徴です。文科省の役割は、共通テストに記述式を入れてこのような大学の学生選抜を手伝う(実際には役立っていない)のではなく、このような大学を将来どうすべきか(延命していくのか)の方向性をつけることです。これは、私立大学の場合は開学の理念があり、簡単には合併をしにくい状況にあるので、簡単なことではありません。  なお、大学に入試選抜として、推薦、AOなどの方法もありますが、もともと大学入試改革では、これらが「実質、無試験の選抜制度」であることが問題視されてきました。現状は、形式だけの推薦入試、AO入試が多く、「学生募集に苦労をしている大学が早めに学生を確保したいだけではないか」という疑いもかけられています。もちろん大学の入学方法はいろいろな方法があってよいのですが、推薦入試、AO入試が本来の目的通りに行われ、それで必要があればこの試験の中で「記述式」を行えばよいので、このために共通テストに記述式を入れる必要はないと思われます。
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センター試験の後継試験の課題
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