入試改革を失敗させた上にまだ記述式に固執する残念な人たち<入試改革のあやまちを繰り返さないために2>

記述式への未練を断ち切るために

文部科学省 2019年12月17日に萩生田光一文部科学大臣の発表によると、2020年度から実施される共通テストにおける数学と国語の記述式試験が見送られることとなりました。萩生田大臣の言葉を借りると「まっさらな状態」から考え直すこととなるようなので、もう一度原点に立ち戻り、大学入試改革をオープンな形で議論されることが期待されます。  数学と国語の記述式の導入が見送られたことで、当初予定されていた大学入試改革の目玉である「英語の民間試験の導入」「数学と国語の記述式の導入」が両方とも頓挫した形になりましたが、これらの案は現実的に厳しいことと議論の進め方に不備があったことがわかったことは文科省にとっては一つの財産になったと思います。  さて、せっかく多くの専門家と高校生の声によって正常化の流れに近づいた入試改革ですが、今からでも元に戻す(それでも記述式を入れたい)流れもあるなど、今後も予断を許さない状況です。この連載では、記述式への未練をしっかりと断ち切り、今後設計されるであろう入試改革について提言をしていきたいと思います。  今回は、これまでの入試改革を失敗させた残念な人達についてその発言、考え方を分析する予定でしたが、新しい動きがありましたのでまずその点に触れ、これまでの失敗を繰り返さないためにもこれまでの発言から見られるどのような考え方がまずかったのかを検証します。

新しい動き

 混迷が続く大学入試改革ですが、2019年12月27日に「大学入試のあり方に関する検討会議」が設置されました。会議の委員は、次の18人です。(敬称略) ●有識者として 座長・三島良直(東京工業大前学長)、荒瀬克己(大谷大教授)、川嶋太津夫(大阪大高等教育・入試研究開発センター長)、斎木尚子(日本ラグビー協会理事)、宍戸和成(国立特別支援教育総合研究所理事長)、島田康行(筑波大教授)、清水美憲(筑波大教授)、末冨芳(日本大教授)、益戸正樹(UiPath特別顧問)、両角亜希子(東京大准教授)、渡部良典(上智大教授) ●団体代表として 岡正朗(国立大学協会入試委員会委員長、山口大学長)、小林弘祐(日本私立大学協会入試委員会委員長、北里研究所理事長)、芝井敬司(日本私立大学連盟常務理事、関西大学長)、柴田洋三郎(公立大学協会指名理事、福岡県立大理事長)、萩原聡(全国高等学校長協会会長、都立西高校長)、吉田晋(日本私立中学高等学校連合会会長、富士見丘学園理事長)、牧田和樹(全国高等学校PTA連合会会長) ●オブザーバーとして 山本廣基(大学入試センター理事長)  新しい委員による大学入試改革は、大学入試の実務経験者も含まれるなど、幅広く人材を集めたとのことです。まずは新しい委員に期待をしたいと思います。しかしながら、この中にはこれまでの入試改革を失敗に導いた「新しくない」人達も一部残るなど疑問の残る部分もあります。これまでの入試改革に疑問を投げかけてきた人からすれば、「あなたは先日まで『英語民間試験・数学と国語の記述式』を導入しようとして混乱させてきたでしょ」と言いたくなるでしょう。  一般に、トップが変わっても要職にあり続けた人、政権が変わっても役職に留まった人が過去の経緯を知っていることを強みに権勢を振るう例があります。文科省は「残った方」を含め、なぜこの人選になったのかを詳しく説明しないと、改革を失敗に導いた「残った方」も今後バッシングを受けるなどで活動しにくくなるでしょうから、是非選考理由を説明してもらいたいと思います。  それから、この中には、一早く民間試験の不備を指摘してきた京都工芸繊維大学の羽藤由美教授、東京大学の阿部公彦教授の名前がありません。逆に、今回新しく選ばれた方の中には「これからこれまでの経緯も含め勉強する」方もいらっしゃるようなので、そのような方を外せとはいいませんが、この羽藤教授、阿部教授の二方を怖がらずに、19人目、20人目に加えるとよりよい入試改革が実現できると思われます。  また、新しい委員、特に座長には民間業者が前回と同じように近づいてくるでしょうから、なぜ前回の改革が失敗したのかを考えて行動していただき、「外の人」はこの会議を注意深く見守っていくべきと考えます。なお、この会議は原則公開とのことです。
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