鈴木氏もHBO編集部も、
通告書において「不快の念」など一切表明していない。『現代ビジネス』の記事が著作権侵害であると指摘し、改善と調査を求めただけだ。しかし代編集長は回答書で、「盗用」「著作権侵害」との指摘に対して否定した上で、鈴木氏の「不快の念」を理由に記事を訂正した。
法的に問題がないなら、むしろ記事を訂正すべきではない。鈴木氏は『現代ビジネス』や時任氏に協力したわけでもない。これが「盗用」でないなら鈴木氏は『現代ビジネス』の記事においては無関係の第三者だ。
無関係な人間の「お気持ち」を忖度して言論を改めるなど、言論の自由の放棄以外の何物でもない。
代編集長は回答書で再発防止のために時任氏に注意するとしている。しかし代編集長の言い分によれば問題点は鈴木氏に「不快の念を抱かせた」という点だけなのだから、代編集長が時任氏に伝える注意は「著作権侵害はやめましょう」ではないのだろう。「参考にした元記事の執筆者のお気持ちを忖度しましょう」だ。
問題3カ所のうち1カ所目は、時任氏が鈴木氏の記事ではなく新聞記事を盗用したと言い張った部分だ。この点について代編集長は回答書で
〈指摘されている3つの箇所が貴社記事を参考にして記述されたものであることを知らず、確認も徹底できておりませんでした〉と書いている。時任氏が「新聞記事をベース」にしたのではなく、この部分も鈴木氏の記事を元にしていたのだと、代編集長が認めている。
しかし回答書には、
時任氏が公の場で事実に反する説明をしたことについて、撤回や謝罪の言葉は記載されていない。そもそも回答書は代編集長のみの名義で、時任氏との連名ではない。時任氏は沈黙したままだ。
講談社のウェブサイト上に、
著作権・画像使用等についてというページがある。
〈
講談社の出版物はもちろん、講談社のホームページ上の画像・文章・漫画・キャラクター等もすべて著作物です。こちらは著作権法によって権利が守られていますので、以下のような行為をすることは禁じられています
1.出版物の装丁・内容・目次等、あるいはホームページ上の画像・文章・漫画・キャラクター等の全部または一部を掲載・転載すること。
2.出版物やホームページ上の文章・漫画等の要約を掲載したり、出版物やホームページ上の画像・文章・漫画・キャラクター等をもとにした漫画・小説・文章等を作成し、掲載すること。〉
〈
以上のような行為は、サーバーにアップロードした段階で著作権法上の「送信可能化権」の侵害に、サーバーにデジタルデータを蓄積した段階で著作権法上の「複製権」の侵害に当たります。このような著作権侵害行為があった場合は法的手段を講じることもありますのでご注意ください。〉
「文章」の「全部または一部を掲載・転載すること」は「著作権法」によって「禁じられている」と書いてある。「文章」を「もとにした文章」を「作成し、掲載すること」も著作権侵害だと書いてある。まったくもってその通りである。これらは「お気持ち」の問題でなく、著作権法違反というれっきとした犯罪なのだ。
ところがこれを、講談社自身が運営する『現代ビジネス』と時任氏が行なった。その上で、著作権侵害だと指摘されると、かくも支離滅裂で不誠実な対応をする。ダブル・スタンダードもいいところだ。
<文/藤倉善郎>