8割の被害妻は、モラ夫を恐れて満足な慰謝料を請求しない
家裁で離婚するとモラ夫たちは、お金を払わされる側になる。そのため、呪いを乗り越えた妻が離婚を要求すると、モラ夫は、それを潰しにかかる。
怒りや大きな声でけん制して、離婚を諦めさせようとする。それが無理とわかると、自分のお金の守りに入る。「(俺こそ)、この結婚の被害者」「(家事育児放棄などを理由に)慰謝料請求するぞ」などと屁理屈を総動員して、妻を威嚇する。
モラハラの海に溺れかかっている妻は、抵抗する力も殆んど残っていないが、力を振り絞って財産分与、慰謝料などを請求すると、モラ夫は「とことん闘うか」「俺は優秀な弁護士を知っているぞ」などと妻を押し潰す。
被害妻の多くは、モラ夫を怒らせないようにすることが身に染みているので、結局、お金を請求せずに縁を切ろうとする。怒らせず円満に離婚すれば、確実に縁が切れると期待するのである。その結果、十分な経済条件なしでの協議離婚が、離婚総数の約8割近くを占めることになる。
ところが離婚弁護の経験からは、しっかりお金を取ったほうが後腐れの可能性が大きく減る。
多くのモラ夫たちは金銭欲が強いので、お金を払わせて痛みを学習すると、元妻に容易には近づかなくなる。ところが、上述のように、別れ際までモラ夫に気を使って、請求するべきものを請求しないでいると、モラ夫に足元を見られる。
そして離婚しても、モラ夫は「成仏」できない。離婚後も、依然として亭主ヅラで、
「(離婚後も)、たまに食事したり、デートしような」
などと宣う。離婚したこと自体を理解していないのである。
私は日々、こんなモラ夫たちと対峙している。私が電話した冒頭の夫は、一日も早い面談を要求しつつ、「平日は仕事なので週末が良い」「週末の午後、俺の最寄り駅で面談しよう」などと平然と自分勝手を言う。
面談では、私はなるべく聞き役に徹する。初回の面談では、離婚条件を示さない。それでも問われれば、婚姻費用(婚姻費用)とは離婚成立までの生活費のこと₎の清算、財産分与、慰謝料、養育費等の相場を説明する。
モラ夫は、妻側の弁護士には何を言っていいと勘違いしているので、離婚条件を話すと平然と、「お前は、金か」などと失礼なことを言う。私はひるまず、「いえ、私は弁護士です」と返すことにしている。
こうして、私のモラ夫バスターな日々が過ぎていく。
<文/大貫憲介 漫画/榎本まみ>