萩原孝一氏(桜美林大学非常勤講師、アフリカ協会特別研究員)
続いて講演したのは、
萩原孝一氏(桜美林大学非常勤講師、アフリカ協会特別研究員)。演題は「
スピリチュアル系元国連職員から在日宇宙人へ」。
大半の読者は意味がわからないだろう。だが安心してほしい。私にもわからない。
萩原氏の演題
萩原氏は国連職員時代、ぎっくり腰で病院に行った際、不思議な声を聞いたのだという。その第一声は「
Save The Earth(地球を守れ)」。
「
うわ。厄介なやつが来たなと。お前は統合失調症か? まあ、この会場の3分の1くらいの人はこのカテゴリー」(萩原氏)
会場の人々が笑い声をあげる。
萩原氏は声が聞こえても病院には行かなかったのか、そのまま「
スピリチュアル系国連職員」になったのだという。そして、とんでもないスケールの持論を萩原氏はまくしたてる。
「日本はこれから大変な時代を迎える」「でも日本は大丈夫、とにかく元気を出せ」「死ぬこと以外はかすり傷」「2025年に人類は滅亡する」「いまは第三次世界大戦前夜かもしれない」「これを食い止めることができるのは日本だけ」……。
日本が人類を救うために、
「在日宇宙人」によって国連に代わる組織「国連スピリチュアル機構(UNSO)」を作ろうというのだ。
写真:若田部修氏提供
「宇宙人信奉」と「日本スゴイ」の夢のコラボレーションだ。やや日刊カルト新聞の若田部修記者によると、萩原氏が「在日宇宙人」や「国連スピリチュアル機構」などと口走るのはこれが初めてではない。過去にスピリチュアルの見本市「癒しフェア」で講演した際にも同様の話をしていたという。
次の講演は
長堀優氏(育生会横浜病院院長)。ノリノリで来場者の笑いを誘いながら話す萩原氏とは対照的に、静かな語り口調だ。
「霊性に根ざした生き方を考える」と題して、
「西洋科学と東洋哲学の融合」「お迎え現象」(臨死体験のようなものか?)の存在を主張。「量子論」などについても説明したが、それがスピリチュアリティとどんな関係があるのかは明確な説明がなかった。
科学との関係については「科学的思考から見みて正しいか否か、を考えるより 大切な態度が看取りの現場にはあるのでは?」として、自身の持論が、人の死をめぐる癒やしにつながるとした。
トークセッション。左が神原康弥氏とその母親ひで子氏
休憩を挾んでトークセッション。先ほどの3人の講演者に「
天の声を聴く詩人」こと
神原康弥氏が加わる。
康弥氏は幼少から重度の障害を抱え、8歳の時に「特別支援学校の教員に体罰を受けたことがきっかけで、宇宙根源の存在に気づ」いたという(
公式サイトより)。話すことができないため、壇上で話すのは母のひで子氏だ。
神原親子はヒーリングを2時間1万円のセミナーや30分1万8000円の「個人コンサル」などを行う活動をしており、「夜間特別コンサルティング」は60分10万8000円だ。ひで子氏はヒーリングのソロ活動も行っている。
「神原康弥と申します。どうぞよろしくお願いします。見ての通りぼくは重度障害者です。え~、26歳かな?」(康弥氏?)
一瞬、康弥氏ではなく母親の言葉が混じったようにも聞こえたが、気のせいか。
「6歳の頃に母がぼくにペンを持たせて、ノート虹を書く練習を初めて、いろんな過程を経て、いまこういう状態で、ぼくの体に触ることで、母がぼくの意識を読み取って通訳をしているという状態です」(ひで子氏)
康弥氏の意識を読み取るため、ひで子氏はずっと康弥氏の腕に手を置いて話す。しかしトークセッションの終盤になると、ひで子氏は康弥氏から完全に手を話して手振りを交えて熱弁を振るっていた。話の内容概ね、死後の魂は宇宙に帰るとか、地球での生活はかりそめだとか、高級霊や守護霊がどうのといったものだ。
神原康弥氏から手を離して話す母・ひで子氏
2002年に起こった
「NHK『奇跡の詩人』問題」を思い出す。
重度の障害を抱えた日木流奈(ひき・るな)くん(当時11歳)を、文字盤を指すことで執筆活動を行っていると称する母子とともにNHKが「奇跡の詩人 ~11歳 脳障害児のメッセージ~」と題するドキュメンタリー番組で取り上げ批判を浴びた問題だ。同番組の映像を見ても、流奈くんの手を持った母親の手が流奈くんの手を動かしているように見えるなど不自然な点が多かった。また、このコミュニケーション方法は、母親が流奈くんに行なわせていた
「ドーマン法」と呼ばれるリハビリの一環でもあったが、これ自体に科学的根拠がないとされる点も問題視された。
この問題は国会でも取り上げられたが、NHKは謝罪や撤回は行なわず、番組内容は事実だと主張。番組の信憑性について検証することはなかった。
今回の公開シンポジウムで登壇した神原康弥氏は、公式サイトによると1993年生まれで、日木流奈くん(1990年生まれ)と4歳差。母親との筆談でコミュニケーションを開始したのが6歳(1999年頃)、「宇宙根源の存在」に気づいたのが8歳(2001年頃)。母とともにセミナーなどを開催するようになったのは22歳(2012年頃)だが、世代も境遇も近い。
その流奈くんは、いまどうしているのか。調べると、まだやっていた。今年9月にスピリチュアル系メディアに掲載されたインタビュー記事*があった。
〈*スターピープル・オンライン:
日木流奈さんインタビュー/第1回 「何が起きても大丈夫!」という人が増えてほしい〉
この問題については、批評すればするほど当人たち(あるいは親)を嘘つき呼ばわりするに等しくなってしまうので、さしあたっては控えたい。障害を持つ子供に特別な能力があるとなれば親としては励みになるだろうし、また別の誰かにとっても癒しや励ましになる場面はあるのかもしれない。
とはいえ、これでいいのだろうか?と感じずにはおれない。
「いま、お母さんが話していますが、話しているのは康弥さんなんですね」(濁川氏)
やはり、意味がわからない。
「みなさんこれを、どのように捉えられるか。もちろんファンタジーとして捉えてもいいと思いますし、全面的に受け入れられてもいいと思いますし。あるいは、否定的に捉えられてもいい。それはみなさんのご自由だと思いますね。でもぼくはですね、本を読ませていただいたり、あるいはお会いしてお話させていただいたりして。彼はさっき龍村仁監督が言た、花や樹や鳥たちとお話ができる人なんですね。ちっちゃい頃からそうだったみたいです。そういうふうな能力を実際にお持ちになっている方が、いままさにここでお話していただいた。というふうにぼくは捉えています」(濁川氏)
信じるか信じないかはあなた次第!と言っておきながら、信じることが正解(あるいは批判しせず受け入れる人がいい人)であるかのように思いたくなる物言いで締めくくる。