高校の政治経済の教科書を参考に、桜を見る会問題の説明から逃げ回る安倍首相に上手な幕の引き方を提案してみた

議院内閣制の危機

kelly marken / PIXTA(ピクスタ)

説明から逃げ回る安倍首相によって議院内閣制が危機に

 11月8日の参議院予算委員会における田村智子議員(日本共産党)の質疑から始まった安倍首相の「桜を見る会」問題について、11月13日付「桜を見る会問題が示す、自民党の本質。そして、有権者に突きつけられる選択肢」(HBOL)で、公職選挙法違反の疑いが濃いと指摘しました。それから1か月近く経ち、新たな疑惑や問題が続々と出てきています。それらについては、毎日新聞の特集ページが詳報しています。  この間、安倍首相と政府与党が説明から逃げ回ってきたことから、この問題はより重大になってきました。安倍首相は、国会と記者への説明を基本的に菅官房長官に丸投げし、自らは説明への反論がなされにくい場で、3回説明しただけでした。すなわち、11月15日の番記者に対する2回のぶら下がり取材と、12月2日の参議院本会議です。国会の委員会や官邸の会見場での質疑応答には応じていません。  そのため、税金の私物化に対する「安倍首相の説明責任からの逃避」という問題に発展してきたのです。安倍首相は、予算執行に対する最高責任者であるというだけでなく、自らが直接的に関与した予算執行の説明を求められているのです。  これは、公職選挙法の違反よりもはるかに重大な問題です。なぜならば、内閣総理大臣としての務めを果たそうとしないことだからです。職務放棄や敵前逃亡と批判されても仕方のない状況です。  それにもかかわらず、与党の自民党・公明党議員たちは、安倍首相を批判するどころか、かばい立てしています。これは、議院内閣制における与党議員としての役割を放棄することを意味し、議院内閣制の危機でもあります。議院内閣制の長所は、首相が大きな問題を起こしたとき、首相に国会で説明させたり、次の選挙を待たずに首相を辞めさせたりできることにあるからです。

今こそ読み返して欲しい高校教科書

 安倍首相と自民党・公明党議員の皆さまは、議院内閣制の原則について、まったくご存知ないようです。それでは、内閣を預かり、与党を構成し、法律と予算を執行することに、大きな不安を抱かれていらっしゃることでしょう。そこで、今からでも遅くないので、こっそり勉強できるように、本欄でご説明申し上げましょう。  使うのは、高校の政治・経済の教科書実教出版の文部科学省検討済み教科書)です。残念ながら、必修科目でないことから、安倍首相と自民党・公明党議員の皆さまは、書かれていることをご存知ないのでしょう。中学校でしっかり行う日本史を、高校でも必修化しているから、政治・経済を学ぶ時間がないんですよね。萩生田文部科学大臣には、高校の日本史を必修から外し、政治・経済を必修科目にしていただくよう、この場を借りてお願い申し上げます。  さて、内閣総理大臣の役割について、教科書は「内閣の首長として、他の国務大臣の上位にあり、内閣を統括し代表する」と書いています。その「内閣は、国会に対して連帯して責任を負う」ことになっています。国会は「全国民を代表する選挙された議員」で構成されています。  つまり、内閣総理大臣は、行政の事務について、国民の代表である国会に対して、説明する責任があるのです。一般的な行政の事務についてすら「統括し代表する」責任を負っているのですから、安倍首相自らが関与した行政の事務については、他の大臣や行政官に説明を代行させてなりません。  国会審議については「官僚が質疑・答弁のシナリオを作成するなど、審議を形だけのものとするような慣行が続いてきた。こうした事態は、官僚支配ないし官主導社会などと呼ばれ、政治・行政改革の根本的な課題とされてきた」と説明されています。  ですから、安倍首相には、国会委員会はもちろんのこと、可能であれば野党の追及本部ヒアリングにも出向き、疑念を払しょくすることが求められます。少なくとも、自らへの疑念の説明について、部下の官僚にすべてを丸投げする姿勢は、いただけません。教科書が指摘する「官僚支配」につながることから、安倍首相が政治のリーダーシップを発揮すべきです。  教科書は、与党議員の皆さまに対して「与野党の国会対策担当者のあいだで議事運営があらかじめ取り決められることも多いなど、不透明な国会運営もみられる(いわゆる国対政治)」と指摘しています。  桜を見る会問題では、野党が透明な国会運営を申し入れているのに対し、与党が審議拒否を繰り返すなど、不透明な国会運営に固執しています。参議院規則第38条に基づく、参議院での予算委員会開会要求も、委員長が応じようとしたにもかかわらず、与党の国会対策委員会が突っぱねています。  さらに、教科書は「官主導社会を転換し、行政の透明性を確保することが、日本の重要な課題」であり、その観点から「1999年には中央省庁のすべての行政文書を対象とした情報公開法が成立した」と説明しています。  桜を見る会問題では、国会議員の資料要求の直後に、公文書をシュレッダーにかけてしまったという信じがたい事態が発生していることから、行政の透明性に関しても、重大な問題になっています。  教科書は、議院内閣制について「国民を代表する議会がつねに政府をコントロールできるという利点がある。しかし、政党政治のもとでは、多数党が立法権と行政権をともに掌握することとなり、行政に対する民主的コントロールが有効にはたらかないことになるという問題点もかかえている」と、解説しています。  このように高校の政治・経済の教科書に照らせば、安倍首相と与党の自民党・公明党は、議院内閣制の「問題点」ばかりを示している内閣と与党となるのです。
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安倍首相と与党に現状打開の起死回生策を提案する
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