2019年の桜を見る会。安倍昭恵夫人の姿も。EPA=時事
11月8日の参議院予算委員会における田村智子議員(日本共産党)の質疑によって、
安倍首相を始めとする自由民主党議員の後援者が首相主催の「桜を見る会」に多数、招待されていることが明らかになりました。田村議員と安倍首相のやり取りについては、
犬飼淳さんによるハーバービジネスオンラインの記事によって詳しく解説されています。
【参考記事】⇒
「桜を見る会」問題。共産党・田村智子議員の問いに安倍総理はどう応じたのか? 信号無視話法分析してみた
この問題については、
大きく二つの論点があります。
①桜を見る会に自民党議員の後援者が招待されていることの是非
②桜を見る会を税金で開催することの是非
これらは、似ているようでまったく異なる論点です。それぞれについて、解説しましょう。
前者、桜を見る会に自民党議員の後援者が招待されている論点は、
税金の私物化です。「自民党が議員の地盤培養活動に税金を使っているのではないか」と言い換えられます。地盤培養活動とは、後援会の会員を増やし、結束を強めるための活動を指します。かつて、小渕優子議員が支持者を観劇ツアーに招待していました。参加者が実費を負担すれば、サークルでの旅行と同じく、合法です。他方、議員が経費の一部もしくは全部を負担すれば、小渕議員の例のように違法です。
桜を見る会の問題は、
税金の開催と招待制という2つの条件によって、特定の人々への利益供与となっていることです。税金で開催されていても、参加者限定でなければ、問題はありません。例えば、国会見学は税金で実施されていますが、誰でも参加できるため、実費負担になっていれば、議員の後援会活動に組み込んでも問題ありません。同様に、招待制であっても、税金で開催されていなければ、問題はありません。例えば、議員のパーティは招待制ですが、参加者の実費で開催されているため、後援会活動に組み込んでも合法です。条件が揃っているから問題なのです。
そして、利益供与の対象に自民党議員の選挙区民が含まれていることは、
公職選挙法違反の疑いが濃厚です。公職選挙法第199条の5第2項は、次のように規定しています。
”何人も、後援団体の総会その他の集会又は
後援団体が行なう見学、旅行その他の行事において、第四項各号の区分による当該選挙ごとに一定期間、当該選挙区内にある者に対し、
饗応接待をし、又は金銭若しくは記念品その他の物品を供与してはならない。”
このとおり、安倍首相をはじめとする
自民党議員の行為は「饗応接待」に当たる可能性が高いのです。例え、
往復交通費が実費であっても、桜を見る会が税金で開催され、招待制であることから、その費用を分担しているわけではありません。そこで飲食を提供されなかったとしても、特別な機会で「接待」されたことは疑いのない事実です。
この問題に関連し、自民党の
二階俊博幹事長は「選挙区に配慮して当然」と発言しました。
11月12日付の共同通信は、二階幹事長が「議員が選挙区の皆さんに配慮するのは当然だ」と語ったと報じています。
二階幹事長の発言は、安倍首相をはじめとする
自民党議員の本音を代弁したと考えられます。二階幹事長からすれば「
自民党が与党を担うことは、税金の私物化を有権者から許可されたのと同じ。嫌なら、安倍政権と自民党を支持しなきゃいい。ずっと自民党に与党を任せて、有権者もメディアも知っているくせに、何を今さら驚いているのだ」という気持ちなのでしょう。
自民党は、多種多様な利益団体の集合体という性格を有しています。利益団体には、日本経済団体連合会という財界から、建設業協会や日本医師会などの業界団体、神道政治連盟や崇教真光などの宗教団体、日本遺族会や行政書士政治連盟などの専門団体、そして各地の自治会・町内会に至るまで、大小様々に含まれます。それらが、ガッチリ支持から、何となく支持まで集まり、自民党を形成しています。
各利益団体の部分最適の追求を保障するのが、自民党政権のもっとも重要な役割です。よって、政権を失って野党に転じると、それができなくなり、急速に遠心力が働いてしまいます。
多様な各団体のハブを担っているのが、各議員の個人後援会です。経団連や宗教団体のように、中央組織がしっかりしている団体ばかりではありません。むしろ、多くは分権的な団体です。それを地域単位で束ね、国会議員や地方議員に伝達する役割が個人後援会にあります。その機能と引き換えに、議員は票や資金を得ています。
個人後援会で重視されるのは、
利益共同体としての家族的な人間関係の形成です。議員を含めた「なあなあ」のなれ合い関係とも言えます。それは、後援会員からすれば、
議員を動かすという非公式な手段によって、本来得られる以上の利益を行政から得ることを可能にします。議員からすれば、後援会員の離反を防ぐことを意味します。
家族的な人間関係を形成するに当たり、もっとも
多用されるのが「旅行」です。同じ時間、空間、経験を共有し、一緒に食事し、写真を撮れば、人間関係が強まるからです。とりわけ、後援会員だからこそ経験できる「特別な旅行」であれば、より強まります。
多くの政治家、多くの政党が、このようにして地盤を培養してきましたが、それを
精度の高いシステムとして完成させたのが、70年代から80年代にかけての自民党です。70年代に入り、経済成長という普遍的な果実を提供しにくくなり、自民党は各団体に補助金などの利益を提供することで、組織の強化を図るようになりました。やがて、族議員と団体陳情を核とする、集票システムに至りました。
つまり、自民党とは、
税金を支持団体に分配する役割をずっと担ってきたのです。二階幹事長は、そのシステムを牛耳っていた自民党派閥(竹下派)の出身者として、桜を見る会への後援会員の招待について、当たり前だと考えたのでしょう。