麻薬の産地でもなく地場のカルテルもいないエクアドルがトランプの「要注意国」リストに入っている理由

エクアドルの夜景

エクアドルの夜景。麻薬の産地ではなく、比較的治安はいいほうだが……
Photo by hbieser via Pixabay

 世界で最も麻薬の被害を受けている米国のトランプ大統領が、麻薬の生産国及び中継地としてリストアップしている国は22か国となっている。  アフガニスタン、バハマ、ベリーズ、ビルマ、ボリビア、コロンビア、コスタリカ、ドミニカ、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、ハイチ、ホンジュラス、インド、ジャマイカ、ラオス、メキシコ、ニカラグア、パキスタン、パナマ、ペルー、ベネズエラである(参照:「ホワイトハウス」、「Expreso」)  ご覧になればおわかりだと思うが、大半がラテンアメリカに位置している国である。

麻薬業者にとって格好の土地「エクアドル」

 このリストにあるエクアドルは麻薬の密輸業者にとって恰好の国だ。  しかし、麻薬の生産国ではない、犯罪は比較的少ない、地場のカルテルもいない、ということで本来ならば余り注目を集める国ではないはずだ。ところが、隣国に麻薬の大量生産国コロンビアを控え、同国で生産されているコカインの3分の1以上がエクアドルに持ち込まれているというのである。一旦、エクアドルに持ち込まれた麻薬が同国から海路、陸路、空路を介して米国、ヨーロッパ、アジアそしてオセアニアに密輸されているという。  電子情報紙『Insight Crime』(2019年10月31日付)によると、2018年のエクアドルから密輸先の44%が米国、22%ヨーロッパ、4%中南米、1%アジア、1%オセアニア、残り28%は不明とされている。米国向けは陸路と空路、ヨーロッパの場合は通常の商品輸送コンテナー中にコカインを紛れ込ませて発送している。  2014-2019年の間にエクアドルに密輸入されたコカインが摘発され押収された量は500トンということで麻薬の生産国でない国で摘発された量としては世界で最大の量だとされている。  また2015年の麻薬による社会的費用は2億1400万ドル(230億円)に上り、GDPの0.22%に相当するそうだ。(参照:「El Universo」)

エクアドルと「麻薬」の歴史

 エクアドルが麻薬と関係を持つようになるのは1980年代からで、ペルーからコカインをコロンビアに密輸するのに中継国となったのがきっかけであった。その後、2000年にエクアドルが法定通貨として米ドルを採用したことによって隣国コロンビアの麻薬業者などが資金洗浄にエクアドルを利用するようになった。  解散したコロンビア革命軍(FARC)はコカインを栽培していたが、コロンビア政府はコカの栽培を撲滅させようとして空からコカ畑に薬剤を散布するという手段を取った。その影響からコカの栽培もエクアドルとの国境の方に移動して行った。そして、そこで栽培してコカインにしたものを彼らが提供したひとつにカルテル・ノルテ・デル・バーリェがある。このカルテルがエクアドルでの密売ルートを開拓したのである。  ラファエル・コレアが大統領だった時(2007-2017)に、同国のマンタにある米軍基地の撤退をコレアが決定したが、その背景にはコロンビア革命軍が、米軍基地が麻薬の密売などをコントロールしないようにという要請をコレアに伝えたからであったという。その代わり、コロンビア革命軍は彼に政治資金を提供するという裏約束を交わしたのであった。
次のページ
コロンビア革命軍とコレア元大統領の「蜜月」
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会