米軍基地を撤退させたことで、エクアドルは米国との関係は悪化した。麻薬の被害を最も多く受けている米国にとってマンタの米軍基地はコロンビアとエクアドルの麻薬をコントロールするには重要な基地であったからである。
この辺りの事情をコロンビアのジャーナリストエルビン・オーヨスが以下に明らかにしている。
コレアが大統領に就任する前の2005年には、すでにコロンビア革命軍と接触していたという。その時点から革命軍はコレアに米軍基地を継続させないようにという要望を伝えていたそうだ。その代りに政治資金として定期的に3億ペソ(950万円)を提供することを約束。
革命軍はコロンビア出身者が大半であるが、彼らもコレアに投票できるように偽造身分証明書の発行も約束。コレアは2007年に大統領に就任して革命軍の要望通り米軍基地を撤退させたのである。コレアの政権下で革命軍のコカインの密売を容易にさせ、全ての国家機関で汚職が慢性化したのであった。コレアはエクアドルを犯罪組織の頼れる国に仕立てたのである。(参照:「
Ecuador Envivo」)
例えば、エクアドルでは警察や軍隊が積荷に麻薬が積まれているかを摘発すべきところを、逆に積荷を守り安全に輸送するために公用車を提供したという事態も発生していたことが報告されている。
また、麻薬密売人が逮捕されても、密売業者は検事や判事を買収して捜査が前に進まないようにして被告に有利な判決を下すのを容易にさせた。更に政治家にも賄賂を渡して問題に終止符を打たせるようにさせていた。(参照:「
Insight Crime」)
2017年にレニン・モレノが大統領になると事態は一変するのである。モレノはコレアが大統領の時に副大統領であったが、米国寄りに舵を切るのであった。米国の協力を得て麻薬ルートの取り締まりを強化し、隣国コロンビア政府とも密着した協力体制で麻薬の販売ルートなどの壊滅に動いた。更に、コレアに関係していた高官を逮捕して汚職の取り締まりも実行していた。(参照:「
Insight Crime」)
ところが、10月にガソリンと軽油の補助金制度の廃止、公務員の20%削減や休暇日数の半減などを発表した時点からそれに抗議するデモが起きて過激化した。それはIMFからの融資を受けるためにその交換条件としてIMFからの緊縮策をモレノが受け入れたからであった。
モレノがこの補助金制度の廃止を決めたのは国家財政が危機的状態あったからで、国民から反発を食らうのは必至だと理解していた。その要因をつくったのがコレア前大統領であった。コレアの政治は汚職、権力の乱用、ポピュリズムに満ちたものであった。抗議デモが過激化してモレノは補助金制度の廃止を中断させた。この危機の隙間を抜ってまた麻薬組織が背後から活動を取り戻しているというのが現状である。
といったことで、エクアドルは今も麻薬の密輸を積極的に展開している。スペインはその重要な密入国である。例えば、今年6月にもエクアドルのグアヤキルから発送された銅鉱石188トンを12本のコンテナー分けてバルセロナに入港させた中から純度の非常に高いコカイン785袋が検出されたそうだ。およそ1トンに相当する量だという。(参照:「
El Mundo」)
<文/白石和幸>