大学は不認可とされたが、幸福の科学は大学用に作った施設を無認可のまま「ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ」(HSU)」として開設した。文科省に確認したところ、学校の認可を受けていないものを「大学」と称することはできないが、「ユニバーシティ」と名乗ることを禁じるルールはないという。
大半か、下手をしたら全学生が幸福の科学信者と思われるHSUの授業内容は不明だ。しかし、HSUの目指す教育が教義と学問を混同したものであることは、様々な面からうかがい知ることができる。
私の手元に、「
幸福の科学大学シリーズ」と銘打った幸福の科学の書籍の内容をテキスト化したデータが89冊分ある。前回の大学申請前の2013年から不認可となった後の2015年までに発刊されたもので、同大学に問題を感じた幸福の科学脱会者やウォッチャーたちが、内容を検証するために書籍をかき集めデータ化してくれた。
『もし湯川秀樹博士が幸福の科学大学「未来産業学部長」だったら何と答えるか』(幸福の科学大学シリーズ16)、『吉田松陰「現代の教育論・人材論」を語る』(同73)、『ヘーゲルに聞いてみた-ドイツ観念論哲学の巨人が「現代」を語る-』(同80)など(いずれも著者は大川隆法)、
「大学」と銘打ったシリーズでありながら霊言が収録されている。1つ1つを見ていくと頭がくらくらするので、ここではキーワードによる検索結果だけ紹介しよう。本文以外の目次、ページごとのヘッダー、巻末にある別書籍の紹介なども検索対象なので、数値は飽くまでも大雑把なものだ。
たとえば89冊を「
霊言」というワードで検索してみる。
83冊から計1,280カ所がヒットした。「
守護霊」は
80冊、459カ所。「
霊界」は
63冊、423カ所。「
悪魔」は
43冊、213カ所。
幸福の科学では宇宙人は存在すると信じられており、大川総裁は頻繁に「霊言」で宇宙人の霊も呼び出している。そこで「
宇宙人」で検索してみると
27冊、230カ所がヒットした。「
UFO」は
23冊、117カ所。
検索するだけでも、やはりくらくらしてしまった。
「
幸福実現党」というワードで検索すると
84冊、281カ所がヒットする。冊数で言えば「霊言」より多い。前述の通り、
教育基本法では学校による政治活動や政治教育が禁じられているのだが。
このほかに「HSUテキスト」と題したシリーズもあり、上記が全てではない。
HSUの図書館に並ぶ宇宙人霊言の書籍群。本文にある「大学シリーズ」とは別(読者提供)
HSUでは大学祭を模した「HSU祭」が開催される(今年はなぜか中止された)。これまで、宇宙人の解剖模型展示や、コンピューターに仏法真理(幸福の科学の教義)を教え込んでAI(人工知能)を開発するというプロジェクトの展示など、やはり頭がくらくらするような企画が散見された。このAIは「SHINRI」と呼ばれ、宇宙人ごとの善悪を見極めることができるという。
2018年のHSU祭では、「愛国サークル」なるサークルが「真実の歴史博物館」と題する展示を行った。大東亜戦争を正義だったとする内容で、配布資料には、日本に対して「韓国国民は尊敬を、日本国民は誇りを抱くべき」などと書かれていた。同時に、東京裁判を「茶番以外の何ものでもない」とする「
パール判事の霊言」も掲載されている。
愛国サークルの配布資料より抜粋(複数カ所を1枚の画像にまとめたもの)
「塚本幼稚園の大学版か!」と言いたくなるが、よくあるネトウヨ的な歴史修正ともひと味違う。何せ
「霊言」が根拠の一つなのだ。教義と客観的歴史の境界線が全くない。もはやネトウヨ云々以前の問題だろう。
前回の大学設置認可の申請の前年、大川総裁は教団内での講演で、こう語っている。
「認可が下りるまでは一応、文科省の指導方針に合わせた方向で作っていくが、
逸脱していくことは当然ありうる」
どのような方向性で逸脱したいと考えているのかは、ここで紹介したHSUの実態を見れば明らかだろう。霊言だの宇宙人だのという教義と学問とを混同した教育であり、場合によっては
「ネトウヨ以前の問題」を抱え隣国を見下す歴史修正学生をも生み出すような教育だ。
少なくとも幸福の科学を長く取材してきた身としては、こうなることは2014年の申請の前からわかりきっていた。申請の前から、大学関係者が信者向け映像で「UFOや霊界の技術を研究する」などと口走っていた。また大学の設置を申請している学校法人幸福の科学学園は、すでに開校済みの幸福の科学学園(中学高校)で、歴史の授業中に教師が霊言に基づいて歴史上の人物の「過去世」を教えたりシュメール文明の王が「レプタリアン」(宇宙人の一種)の指導を受けていたなどと教えたり、また別の科目では幸福実現党を支持する政治教育の授業をしたりしてきたのだから。
これが、前回の申請時に
萩生田・現文科相が「名義貸し」まで指南した大学の計画の実情だ。国会議員の行いとして、これだけで十分に問題だろう。その萩生田氏が、いま文科相である。
冒頭で紹介した日刊ゲンダイの記事は、これを「モリカケに続く“学園モノ”か」と評している。せっかくの「蕎麦つながり」の「モリカケ」だ。蕎麦につなげようがない「幸福」が加わらないことを願いつつ、今後も注視していきたい。
<取材・文/藤倉善郎>