台風15号によって崩壊した山武杉林
台風15号の襲来から1か月が経過した10月9日、千葉市でトークイベントが行われた。会場となった「土気あすみが丘プラザ」には当初予定された定員を大きく上回る参加者が集結。泊まりがけの人もいて、開催直前に主催者は会場を変更している。参加者達は、林業と土壌の専門家によるクロストークに耳を傾けた。
台風15号は関東地方に上陸した事例としては観測史上最強級。千葉県を中心に大きな被害を残したのは、報道の通りだ。
この被害の中でにわかに注目されたのが「山武杉」。千葉県の山武や千葉、印旛、長生、夷隅地域を山地とするこの杉が強風で相次いで倒れた。
背景には林業の衰退による「スギ非赤枯性溝腐病」の蔓延があるとの指摘もある。県内での停電被害の拡大と復旧作業の妨げの原因となった──そんな説明が一部で流布されてもいる。
イベントの登壇者は2人。「自伐型林業推進協会」理事長の中嶋健造氏と「地球守」代表理事の高田宏臣氏だ。
主催者である高田氏は、千葉市内で造園業を営んでいる。国内外で造園設計加工を手がけるかたわら、環境再生の活動もしてきた。水と空気の健全な循環に着目し、住宅地や里山、保安林などの環境改善、環境再生手法の提案、実証を続けている。
今回のイベント開催のきっかけは、高田氏がブログで発表した
「台風15号にともなう風倒被害と山武杉(さんぶすぎ)のお話」だ。
このテキストにコメントを寄せたのが、高知県いの町で自伐型林業を提唱し、実践する中嶋氏だった。中嶋氏は高田氏に「台風15号による風倒木の被害状況を視察したい」と要請した。
中嶋氏一行と高田氏、希望者数名で、山武杉を含めた千葉市近郊の被害状況を視察することになった。視察の結果も踏まえ、災害に強い林業の在り方や森林環境のありかたについて両氏が語り合い、参加者と共有する場としてイベントが企画されたのだ。
大型高性能林業機器による「皆伐」「大規模間伐」が森を破壊
わずか1年前に産廃とともに畑が埋め立てられた脇の山林は、土中環境変化の影響を受けて今回の台風に抗せずに壊滅した
まずは中嶋氏が発言。冒頭から毎年のように台風や豪雨による土砂災害が起こっている国内の現状の背景を率直に言明した。
「山で起きている被害の半分以上は、林業が引き起こしているんじゃないでしょうか。千葉の状況もだいたい予想した通り。まだ1日しか見ていないので、全体のことは断言できませんが『今回も林業がかなり(被害を)引き起こしとるな』と思いました」
中嶋氏が手がける「
自伐型林業」とは、本人の言葉によれば「自分でやる林業」だという。ただ、それだけでは定義が十分とは言えない。森林所有者が経営・管理・施業を委託する林業形態から、自家伐採と6次産業による持続可能な森林経営手法だ。
現在、日本の林業で一般化してるのは「
生産性重視」。具体的に言えば、
大規模な合板・集成材工場や木質バイオマス発電所への供給を前提とし、
大型の高性能林業機器を導入し、「皆伐」や「大規模間伐」を行っている。
各都道府県では森林環境税で
「強度間伐して放置」「人工林を皆伐して広葉樹林への樹種転換」などを推奨している。こうした施業をした林は隙間だらけだ。「この状態が土砂災害を誘発し、森林劣化を巻き起こしている要因だ」と中嶋氏は指摘する。
従来型の大規模集約型林業では、大型機器で作業できるように幅の広い作業道を通し、過間伐を進めていく。道幅が広いため、切土を高くしなければならない。結果として法面崩壊や盛土崩壊、風倒木被害が起こっている。ちなみに皆伐や作業道敷設には、補助金がつけられている。
自伐型林業が目指すのは現状とはまったく違う。目標とするのは天然林で、100〜150年もの長期にわたる多間伐施業を行うことで、50年以降はA材、超A材、銘木中心の中高品質材が生産できるようになるという。
「本来、日本の山には高品質材が多い。山が急峻で雨が多く、地質が複雑です。日本の林業には大型高性能林業機器は向きません。それどころか日本林業の特徴を殺し、森を破壊してしまいます。自伐型こそ、日本に最も適している」